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日本語日本文学科

2023.08.01

文字の書き分け|家入博徳|日文エッセイ238

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日本語日本文学科

日文エッセイ

学科ダイアリー

【著者紹介】
家入 博徳(いえいり ひろのり)
書道担当

書道史・文字表記史を研究しています。
 
文字の書き分け

 現在の仮名は1音につき1字が用いられている。ただし、それは比較的最近になってからである。
明治33年の小学校令施行規則によって仮名が1音1字と定められて以降、今日ではこの定められた仮名を平仮名と呼んでいる。一方、明治33年以前には、1音につき実に様々な種類の文字を仮名として使用していた。平仮名以外の仮名を変体仮名や異体仮名と呼んでいる(呼び方は複数あるが、以降異体仮名とする)。
 今回は、ノートルダム清心女子大学特殊文庫(黒川文庫)に所蔵している書写本である『詞華和歌集』(函架番号:黒1 E100)(以後、黒川本詞華集とする)を取り上げ、異体仮名を始めとする文字の書き分けについて見てみることにする。
 まず、黒川本詞華集についてであるが、すでに『ノートルダム清心女子大学貴重叢書』で影印が刊行されているものである(1)。叢書の解題によると、書写者は巻末に「大田持資(もちすけ)(花押)」とあり、表紙に「大田持資自筆本」とあることから、「大田持資自筆本」とし、室町期書写としている(2)。では、「大田持資」とはどのような人物であろうか。一説には、室町期の武将である太田道灌(どうかん)の出家以前の名が「持資」であったとしていることから、道灌である可能性が考えられるが、定かではない(3)。また、道灌の筆跡については書状がいくつか確認されているが、仮名の資料は確認できず、比較ができなかった。したがって、現時点では「大田持資」がどのような人物であったかについては分からない。黒川本詞華集の書写者については今後さらなる研究が必要である。

黒川本詞華集巻末

黒川本詞華集巻末

黒川本詞華集表紙

黒川本詞華集表紙

 次に、文字の書き分けについて見てみることにする。ここでは、「川」の文字について取り上げる。「川」は仮名のツとして使用する場合と漢字のカワとして使用する場合がある。はじめに、仮名として「川」を使用している例を以下に示すことにする。
7 与(よ)路(ろ)川(つ)よ能(の)ためし尓(に)【君】可(か)ひ可(か)る礼(れ)八(は)【子】【日】の【松】もうらや三(み)屋(や)世(せ)ん(4)
 

黒川本詞華集7番歌

黒川本詞華集7番歌

黒川本詞華集の場合、仮名のツは「川」の他に、平仮名の「つ」や異体仮名の「徒」を使用していた。では、漢字のカワはどうであろうか。黒川本詞華集を見ると、基本的に「河」を使用している。漢字として使用している例を以下に示すことにする。
93 【天】【河】かへらぬ【水】をた奈(な)八(は)多(た)八(は)うらやましとやけさ八(は)三(み)るら無(む)

黒川本詞華集93番歌

黒川本詞華集93番歌

つまり、仮名で「川」を使用しているために、漢字としては「川」を使用せず「河」を使用したと考えられる。ただし、一箇所のみ漢字「川」を使用している箇所がある。
229 【瀬】を八(は)や三(み)【岩】尓(に)世(せ)可(か)るゝ【瀧】【川】乃(の)王(わ)れても春(す)衛(ゑ)尓(に)あ八(は)むとそ【思】ふ

黒川本詞華集229番歌

黒川本詞華集229番歌

1箇所のみ漢字として「川」を使用していることから、「川」は基本的に仮名として使用していたことが考えられる。しかし、気を付けながら書き分けながらも、229番歌では、つい漢字のカワを「川」と書いてしまったことが推測される。
 今回は「川」の文字をもとに、文字の書き分けについて見てみたが、書写本には活字ではわからない「書くこと」への姿勢が見えてくるのである。


1 『ノートルダム清心女子大学古典叢書第2期 17』(福武書店 昭和53年)
2 注1と同じ。なお、解題は元本学学長である雑賀美枝による。
3 太田道灌について、勝守すみは「鶴千代丸は文安三年(一四四六)、十五歳で元服して、源六郎資長と名のった。道灌の名のりに、持資と資長の二つがあり、若年のころは持資、資長は後年の名であるという説もある。しかし、正確な記録には、資長と見えているので、資長が正しい名のりである。」(p12)とあり(『太田道灌』人物往来社 昭和41年)、小川剛生は「その実名は持資・資長と伝えられるが、「持資」の方は信用できる史料に見えない。」(p143)と述べる。(『武士はなぜ歌を詠むのか』角川学芸出版 平成20年)
4 歌番号は『新編国歌大観』第1巻(角川書店 昭和58年)によった。また、【】墨付括弧は漢字であることを示し、()丸括弧は平仮名の場合の文字を示す。以後、同じ。


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