英語英文学科

人間生活学科

2019.12.13

翻訳と国際コミュニケーション|木津弥佳教授

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英語英文学科には、英米文学、英語学言語学、国際コミュニケーションという三つの履修コースがあり、3年次に各コースから開講されている演習(ゼミ)を1つ選択することによってどのコースに所属するかが決まります。私のゼミでは英日翻訳を扱っていますが、文学でも英語・言語学でもなく、国際コミュニケーションコースの科目として開かれています。

一見すると、翻訳と国際コミュニケーションはつながりがないように思われるかもしれません。ここでは、なぜ翻訳が国際コミュニケーションなのか、ということをお話ししたいと思います。


皆さんは「翻訳」というとどういうイメージを抱くでしょうか。中学や高校の授業で行ってきた英文「訳読」を思い浮かべるかもしれませんが、実は翻訳と訳読は全く異なる目的を持った別の作業なのです。

訳読では、一文の文法構造を分析しながら、時には原文の構造や表現を意図的に残した形で、正確に訳すことが重視されます。というのも語学の授業で行われる訳読は、学習者の理解を確認するために必要とされる学習法であるため、訳した文が多少不自然であっても、細部を理解していることがわかればそれで良いからです。

これに対して翻訳は、一語一句、一文一文を別の言語に単純に置き換えるわけではなく、与えられた文章を別の言語の読者にわかりやすく伝えることを目的としています。つまり、起点となる言語と目標となる言語の語彙や構造の知識だけではなく、原文の背景にある文化や習慣、文章の内容に関するあらゆる背景知識も総動員し、それが目標言語の文化、習慣、読者の持つ常識・知識とどのように異なるかも理解しなければ、良い翻訳とはならないのです。

 

 

学生の試訳をもとにしたディスカッション学生の試訳をもとにしたディスカッション

いくつか英語・日本語を翻訳するときの具体例を考えてみましょう。例えば英語の新聞記事では、A powerful typhoon was blowing across the country on Tuesday...のように、出来事の時間を曜日で表しますが、日本語の新聞記事では「勢力を保った台風19号が9日、・・・」のように日付けで表します。つまり英文記事をそのまま曜日で直訳すると日本の読者は違和感を抱くことになりますので、日本の新聞のしきたりに合わせる必要があるわけです。

また、そのまま訳しても目標言語の読者に馴染みのないものは、原文にない説明を加えたり、原文にあっても訳さない選択をする場合もあります。例えば「林家三平そっくりのランナーで・・・」というのを 
he has a square head, curly hair, and short but powerful legs というように、容姿についての説明を加えてどんな人かを表すこともありますし、The prisoner kept singing it again and again: “Can you see?...Oh, say can you see?” では、歌詞は訳さず「アメリカの国歌を何度も歌い続けた」とした方が読者には書き手の意図が伝わるはずです。*
 

 

ゼミでは米国ニュース動画の翻訳コンテストにも応募ゼミでは米国ニュース動画の翻訳コンテストにも応募

国際コミュニケーションコースは複数の分野にわたる学際的なコースとなっていますが、そのどの分野においても、異文化間コミュニケーションが学びの中心的な柱となっています。英日翻訳は、英語という言語と英語圏の文化を正しく深く理解し、母語である日本語と自身の文化を内省しつつ表現していくことから、複眼的な思考を獲得する作業でもあります。異なる言語や文化的特質に気づき、翻訳を通じて多様性を認識し、コミュニケーション力を養成することができるわけですから、国際コミュニケーションに位置付けられるのは当然のことと言えるでしょう。

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この二つの例はHasegawa, Yoko著のThe Routledge Course in Japanese Translation p.32, p.96から抜粋・改編したものです。


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国際コミュニケーション履修コース
木津弥佳教授(教員紹介)