日本語日本文学科

人間生活学科

2025.01.18

【卒業生寄稿】学芸員として、卒業生として、後輩の皆さんへ。(友森陽香)

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1884年に現・岡山県瀬戸内市に生まれた画家・詩人の竹久夢二は、2024年に「生誕140年・没後90年」を迎えました。この記念の年に、特別展「生誕140年・没後90年 竹久夢二展」(2024年11月~2025年2月)の企画をした吉備路文学館学芸員の友森陽香さんに、記事を寄せてもらいました。
友森陽香さんは、竹久夢二をテーマに卒業論文を書いた本学日本語日本文学科の卒業生です。卒業後、吉備路文学館に学芸員として就職して十数年となる貴重な体験を踏まえた思いと、後輩たちへの応援メッセージを綴ってくれました。


 

学芸員として、卒業生として、後輩の皆さんへ。
友森陽香

 
 皆さんは、学芸員という職業をご存知だろうか。学芸員とは、博物館において、資料の収集、保管、展示、調査研究をおこない、また、教育普及活動などの業務をおこなう専門的な職員のことである。ノートルダム清心女子大学では、すべての学部学科において学芸員の資格を取得することが可能であるから、この文章を読んでくれている後輩の皆さんのなかには、資格取得に向けて科目の履修に励んでいる人もいるかもしれない。今回、学芸員として、また卒業生として、私の経験を紹介する機会をいただいたので、学芸員を目指している人はもちろん、そうではない人にも、将来を考える際の参考にしてもらえれば幸いである。
 さて、博物館といっても、対象とする分野によって種類は様々で、美術品や芸術作品を対象とした美術館、科学を対象とした自然史博物館や科学館、歴史を対象とした郷土資料館などがあげられる。私は大学を卒業してから今日まで、吉備路文学館(岡山市北区南方)という施設で学芸員として働いてきた。文学館はその名の通り、文学を対象とした博物館である。
 吉備路文学館は、地域の文学・文化向上に、また生涯学習の場として、人々の役に立とうと、1986年の秋に開館。2026年には開館40周年を迎える。吉備路とは、岡山県全域(備前・備中・美作)と広島県東部(備後)の地域を古くから呼称した言葉で、吉備路文学館では、この吉備路出身及びゆかりの文学者について、著書や原稿などの資料を収集し、年4回の展示をおこなっている。
 
春の吉備路文学館。手前に写っているのは、鬱金(うこん)桜。
毎年4月上旬頃、薄黄緑色の花を咲かせる。

 吉備路文学館での仕事内容は、展示の企画をはじめ、資料の整理や保管、電話対応、受付やミュージアムショップでの接客、SNSの更新、清掃活動のほか、中学生の職場体験学習や大学生の博物館実習も受け入れており、その業務は多岐にわたる。また、自身が担当した展示では、お客様へ展示の解説をしたり、テレビやラジオ、新聞などのマスコミから取材を受けて、展示のPRをしたりすることもある。
 これまでいくつかの展示を担当してきたが、最近では、特別展「生誕140年・没後90年 竹久夢二展」(2024年11月24日(日)~2025年2月16日(日)開催)を担当した。2024年は、竹久夢二の生誕140年・没後90年という節目の年にあたり、これを記念した特別展である。夢二といえば、「夢二式」と呼ばれる女性画のイメージが強く、画家として有名だ。しかし、最初の画集『春の巻』序文の、「私は、文字の代りに繪の形式で詩を畫いて見た。」という記述は、詩人としての夢二を表しており、吉備路文学館では夢二を吉備路の文学者として顕彰している。
 展示を開催するには、実に多くの作業が必要になる。チラシの発注、関連イベントの企画や出演依頼、展示資料の選択、キャプション(資料に添える説明文)作りのほか、展示レイアウトを考えてケース内に資料を並べるのも学芸員の仕事だ。これらのなかには、外部の業者、団体、個人などと交渉し、協力をお願いしなければ進まない作業もある。
 夢二展では、公益財団法人 両備文化振興財団 夢二郷土美術館様にご協力いただき、写真の借用、夢二グッズの販売などを実現した。また、関連イベントでは、ギタリストの方に、夢二が作詞した曲「宵待草」の演奏を依頼。丁寧なコミュニケーションを心掛け、無事に展示やイベントが開催できるよう取り計らうことも、学芸員の仕事なのである。
 
特別展「生誕140年・没後90年 竹久夢二展」のチラシ。

 ところで、私の卒業論文のテーマは、竹久夢二だった。正確には、「竹久夢二論 ―≪故郷≫と≪旅≫から考察する作者の人生観―」というタイトルだったと思う。学生時代の私が夢二をテーマに選んだのは、夢二が私と同じ瀬戸内市出身で親しみがあったこと、そして画家として有名だが、実は文学作品も手掛けているという点に興味を持ったことがきっかけだった。他にもテーマの候補はあったが、最終的には「郷土の文学者について知りたい」という想いが勝り、夢二に決定した。テーマを決めた当時は、まさか将来、自分が学芸員になり、夢二展を担当することになるなんて夢にも思わなかった。しかし、この「郷土の文学者について知りたい」という想いが今の仕事に繋がっているのだから、あのとき夢二を卒業論文のテーマに選んでよかったと、心から思っている。
 学生時代のことを振り返ると、卒業論文に取り組んだ時間は特に印象的な記憶として残っている。厳しくも温かいご指導をくださった先生、親身になってアドバイスをくださった先輩方、助け合い、励まし合い、時は叱咤してくれたゼミ生の仲間たちには、今でも感謝している。ちなみに卒業して十数年の時が経ったが、当時のゼミ生らとは今でも定期的に連絡を取り合い、お互いの近況を知らせあうなど、長く交流が続いている。
 ここまで私の経験を紹介してきたが、少しは参考になっただろうか。学芸員を目指している人も、そうではない人も、まずは興味を持ったことに、ぜひ積極的に取り組んでみてほしい。私は在学中、郷土の文学者に興味を持ち、その結果、学芸員として文学館で働くという機会に恵まれた。そして今は、自分が郷土の文学者について知りたいという気持ちのほかに、多くの人々に郷土の文学者について知ってほしいという思いがある。そのためには、どのような展示をすべきか、どのような工夫が必要か、日々考えている。
 最後になりましたが、後輩の皆さんが、充実した学生生活を送り、自分に合った職に就けるよう、一人の卒業生として応援しています。

【著者紹介】
友森陽香(とももり はるか)
ノートルダム清心女子大学日本語日本文学科卒業(2010年度卒業 59期生)
卒業後、公益財団法人 吉備路文学館にて、特別展「生誕110年 雪の詩人 高祖 保展」、特別展「生誕120年 木山捷平展」などを担当。


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