日本語日本文学科

人間生活学科

2025.01.01

紙で読むor電子で読む?~読書の楽しみ方を考える~ | 近藤 友子 | 日文エッセイ252

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【著者紹介】
近藤 友子(こんどう ともこ)
図書館情報学 司書課程担当

図書館における障害者サービスについて研究しています。
 
 
紙で読むor電子で読む?~読書の楽しみ方を考える~

 
1  紙で読むかor電子で読むか? 

 先日、久しぶりに夏目漱石の『こころ』を読みたくなり手元にある文庫本を探してみました。ところがなかなか見つからず、紙の本で読むのはあきらめて電子版を探すことにしました。早速パソコンで「青空文庫」に接続して電子版の作品を見つけました。 
 皆さんは青空文庫をご存じでしょうか?青空文庫とは誰でも自由にアクセスできるインターネット上の電子図書館です。ボランティアの人たちの手によって打ち込まれたテキストデータをもとに、この電子図書館では著作権が切れた作品等をテキスト形式と、XHTML形式に電子化したものをインターネット上で公開しています。因みに著作権は創作された時に発生し、創作者の死後一定期間保護されます。近年日本での保護期間は創作者の死後50年を経過するまで存続するというものでしたが、2018年12月に死後70年に変更となりました。青空文庫では公開作品は「作家別」「作品別」「分野別」などの方法により探し出すことができます。私は夏目漱石の『こころ』を見つけるために「作家別」の項目から作家名を見つけ出し、その作品のなかから探す方法をとりました。作家の項目ではその人物の生没年や簡単な人物紹介などもあり参考になります。最初のトップページから何度か項目をクリックして探す必要はありますが、読みたいとき手軽に検索して作品を見つけ出せる電子図書館は、手軽で便利な読書を提供していると言えるでしょう。 
 電子図書館から見つけた作品をパソコンの画面上で読むという読書スタイルは、紙の本を読むときの手触り感はなく、ページをめくる感覚も画面スクロールで進めるなど、いろいろと紙の読書との違いがあります。とは言え、紙でも電子でも作品の内容に違いはないため、慣れてしまえばどちらでもよいのかもしれませんが、本を手に持って読む感覚を楽しめないのは少し寂しく感じました。本の重量感や厚み、手触り感などを体感として感じられる点は、紙ならでは良さなのかもしれません。また、電子版を読むのは紙の本よりも目が疲れやすいようにも感じます。そのため結局、わたしは電子版の『こころ』を最後まで読むことができず、図書館で岩波文庫の本を借りて通勤時に紙の本を楽しむこととなりました。紙と電子、それぞれの特性を生かして活用できればと思います。 
  

2  電子書籍を利用する 

 青空文庫では電子版のテキストデータのダウンロードもしくはインターネット上で利用することで読書を楽しめますが、公共図書館などでは電子書籍の貸出を行うことで読書環境を提供しています。電子書籍とは、文章や画像がデジタル形式で作製されていて、コンピュータや携帯電話等の画面に表示して読むタイプの本のことです。電子ブック、Eブック、電子本等とも呼ばれ、電子ジャーナルも含んで言われる場合もあります。電子書籍は貸出・返却のためにわざわざ図書館に出向く必要がなく、インターネット上で手続きが完了するという利便性を持っています。自宅から気軽に電子書籍を借りて読むことができる点はメリットですが、貸出期限がきた途端に閲覧している画面上から電子書籍が消えてしまう(返却されてしまう)のは、なんとなく味気なさを感じたことがあります。しかしこの自動的に返却される機能によって延滞資料が発生しないという点は、資料を貸し出す側にとっては督促する手間が発生しない状況を生み出し、非常に有益な機能であると言えるでしょう。 

3 デジタルデータの活用と読書 

 さて、デジタルデータを活用した電子図書館として「サピエ図書館」も紹介しておきましょう。サピエという名称はラテン語の「サピエンティア」(知識)に由来しているそうです。サピエ図書館はインターネット上で点字図書や録音図書の書誌データベースを利用できる視覚障害者情報総合ネットワークです。登録している図書館が画面上で相互貸借の手続きを行える機能や、コンテンツをダウンロードできる機能などがあります。サピエ図書館は視覚障害者等、活字による読書に困難をお持ちの個人の方なども登録して点字図書や録音図書の検索等を利用できます。例えば点字図書のデジタルデータをダウンロードして、データから点字本を印刷することや、デジタルデータをパソコンなどの自動音声機能で読み上げさせて読書することが可能です。録音図書は音訳されたデジタルデータであり、視覚による読書が困難な方は耳から読書を楽しむことができます。点字図書館では録音図書を作成して利用者に郵送で送る貸出サービスを行っています(写真1)。音を用いて耳で楽しむ読書は手軽ではありますが、気を抜くと耳から情報が抜けやすいようです。以前に視覚障害者の方とお話したときに、本をじっくりと読むなら録音図書よりも自分でしっかりと点字を読んだほうが深く内容を理解しやすいと聞きました。指の先で点字を追いながら、自分のペースで内容を読み進められるのは紙の点字図書の利点のようです(写真2) 。
 紙の本を目で読む読書も、紙に点字で書かれた本を指で読む読書も、電子データを音声変換して耳で読む読書も、どれも読書を楽しむことに変わりはなく、紙も電子も臨機応変に活用することで、楽しい読書の時間を過ごしていくことができそうです

写真1 録音図書の送付用ケース(筆者撮影)写真1 録音図書の送付用ケース(筆者撮影)

写真2 点字を指で触る様子(筆者撮影)写真2 点字を指で触る様子(筆者撮影)

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