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日本語日本文学科

2023.04.01

ゆるがぬ覚悟-大村はま先生の話しことば教育に学ぶ-|伊木洋|日文エッセイ234

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日本語日本文学科

日文エッセイ

【著者紹介】
伊木 洋(いぎ ひろし)
国語科教育担当

国語科教育の実践理論を研究しています。
 
ゆるがぬ覚悟-大村はま先生の話しことば教育に学ぶ-

 2022年11月6日、新型コロナ感染症への対応が続く中、2022年度大村はま記念国語教育の会研究大会が、大村はま先生の母校である横浜市立元街小学校で開催された。大村はま記念国語教育の会事務局発行の「はまかぜ第51号」には、大会の開催を知らせる記事の冒頭に、大村はま先生と横浜市立元街小学校の関わりが次のように記されている。

「横浜市立元街小学校は、大村はま先生が学んだ母校だ。横浜市立尋常高等元街小学校と称していたこの伝統ある学校は1875(明治8)年創立。少女大村はまが生徒だったのは1913(大正2)年から1919(大正8)年の間だ。1859(安政6)年の横浜開港から50数年後のことだ。
 大村は生涯、ここで学んだ新鮮な日々を忘れることなく、その意味を振り返っていた。校長先生のお名前は山内鶴吉先生、毎日交代で披露したクラスの学芸会の様子など、ほんの数年前のことのように語ったものだ。国語教育の歴史に残る実践を積み、思想を深めた大村はまの原点、出発点がここ横浜市立元街小学校にある。」(大村はま記念国語教育の会「はまかぜ第51号」2022 p.1)


 大村はま先生を育んだ横浜市立元街小学校は、横浜港を見下ろす丘の上に位置している。横浜中華街の南門から代官坂を上がっていくと、正門に大会の開催を示す案内が設置されていた。

 大村はま先生は、民主社会の形成に向けて、話し合う力を育てることを大切になさった。2022年度研究大会のテーマは、「ここからふたたび-話し合える人を育てるために-」であり、大村はま先生のお考えに学びつつ、話し合う力を育てるための発表、協議が行われた。研究大会から、中学校の実践研究発表、話し合いを取り上げる。
 中学校の実践研究発表は、「単元が単元を生む-真実のことばで話し合える教室を目指して-」数井千春先生(東京学芸大学附属小金井中学校)であった。都合により、ともに実践研究を進めている東京都青年国語研究会のメンバーによる報告となった。数井先生は、3年間を通して「一人ひとりが一個の存在として、自分のこころを語り、それが大事にされる教室」を目指して、「好き」を起点に心をみつめ、言葉にして学び合った実践(1年生)、興味を広げ、思考を深め、言葉で世界を共有する実践(2年生)など、学習者を起点とした話しことばの力を育てる実践を重ねてこられた。コロナ禍による休校を経て、3年生では、本質をみつめ、自分の軸をみつける実践に取り組み、卒業単元として「学びをテツガクしよう」を実施なさった。数井先生は発表資料の中で、指導者の願いについて次のように述べている。

 三年間で育てたいのは、自分の軸をもち、自分のこころをまっすぐに語ることのできる人である。そして相手のこころを知ろうとする人、相手の存在の重みを感じ、対等に対話を重ねながら、協働して生きることの豊かさを知っている人である。授業者である私自身がそのような人になりたいと願っているし、子どもたちにもそのような人になってほしい。(数井千春「単元が単元を生む-真実のことばで話し合える教室を目指して-」2022年度大村はま記念国語教室の会研究大会実践研究発表資料2022 p.6)

 「卒業単元 学びをテツガクしよう」は、コロナ禍において学ぶことの意味に迷う学習者の実態を踏まえて構想されている。卒業に際し、「学ぶ」をテーマに問いを立て、自らの3年間の学びを振り返り、自己の考えをまとめて発表し合い、5年後の自分に向けて手紙を書くという活動が設定されている。こうした学びを経て、学習者は自己の学びをみつめ、学ぶことに対する考えを深めていったことが報告された。
 昼休みをはさんで、「話し合える人を育てるために-その土台は-」をテーマとして、話し合いが行われた。登壇者は、若木常佳先生(福岡教育大学)、山本賢一先生(川口市立前川小学校)、苅谷夏子氏(大村はま記念国語教育の会事務局長)であった。

 苅谷夏子氏は、「生きていくことは人と話をすること。人と人が話をする、言葉を交わす。私の話すことばは胸を割って見せたいくらい。」という大村はま先生のことばを示し、「大村はま先生は、人と人とが言葉を交わす味わいを子どもに知らせようとなさった、その手応えを知ることが話すことを大切にすることにつながる」と指摘なさった。
 山本賢一先生は、大村はま先生の話し合うことについての言及を踏まえて、自己の教室で取り組んでこられた話し合い指導の実践について報告なさった。
 若木常佳先生は、大村はま先生の話し合うことについての言及をもとに、話し合うことの価値の実感を集積すること、聞くことによって思考を鍛錬することの重要性等を提示なさった。
 伊木もフロアから「話し合いの価値の実感や新たな発見には、質問の指導が鍵を握るのではないか」と発言し、質問の指導について協議が重ねられた。
 会場をあとにするとき、体育館の壁面に掲げられた横浜市立元街小学校の校歌に目がとまった。その歌詞の一節「高き理想を胸にぞいだき ゆるがぬ覚悟は我らが守り」に目がくぎづけになった。高き理想を胸に抱いてゆるがぬ覚悟で、話しことばの教育に取り組まれた大村はま先生。そのお姿は、まさに元街小学校の校歌に示されたことばそのものであった。

参考文献・参考資料
大村はま『大村はま国語教室第2巻』1983 筑摩書房
大村はま記念国語教育の会研究大会2022年度研究大会【横浜元街小学校大会】配付資料 2022
大村はま記念国語教育の会「はまかぜ第51号」2022

伊木洋教授(教員紹介)
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