2023.03.01
【著者紹介】
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、
明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、
明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。
「ツボジョーワールド探検隊」からの文学による平和への願い
―坪田譲治文学による地域貢献から国を越えた文学交流へ―
―坪田譲治文学による地域貢献から国を越えた文学交流へ―
授業「総合探究Ⅰ」で展開される6年目の「ツボジョーワールド探検隊」活動
岡山市島田出身でその生家が本学から近い小説家・児童文学作家の坪田譲治(1890‐1982)は、2022年7月に没後40年を迎えました。坪田譲治は、これまでのリレーエッセイ(第162回「坪田譲治コレクション」-坪田本家と渡邉和子理事長の導きを振り返って-)でも記したように、本学独自の収集に加えて、坪田家ご遺族からの寄贈をいただいた恩恵により、本学附属図書館に充実した「坪田譲治コレクション」を開設し展示している作家です。
譲治は、誕生から18歳までをゆたかに過ごした岡山の風土を愛して、文学作品にもエッセイにも当時の岡山での体験を詳細に描いています。そうした譲治文学を顕彰して岡山市が制定した「坪田譲治文学賞」も第38回を迎えるその長年の実績から、岡山市が「文学による心豊かなまちづくり」を進め、2023年度にはユネスコ創造都市ネットワークに文学分野での加盟申請を予定しています。
そのような坪田譲治について、日本語日本文学科の授業では「近代文学基礎演習」や「近代文学特講Ⅰ」で学ぶ機会を設定しており、その学びの成果として、2017年度から有志学生が結成した「ツボジョーワールド探検隊」が、地元愛を育み地域を活性化できるような地域貢献活動を続けています。その後2021年度までの5年間の実績のもと、2022度はこの活動が日本語日本文学科開講科目「総合探究Ⅰ」において設定され進められました。「ツボジョーワールド探検隊」6年目の活動は、今年度の履修者7名のメンバーによって進められ、文学の福祉への拡がりと貢献を目標としつつ坪田譲治文学をあらゆる年齢層や社会的弱者とも共有できるように譲治紹介冊子が作成され、その内容をもとにした活動が実行されました。
岡山市「学生イノベーションチャレンジ推進事業」に参加
今年度の「ツボジョーワールド探検隊」の学生は、ちょうど年度はじめ頃にはじまったロシアのウクライナへの侵攻もあったことを憂慮し、混乱をめぐる人々の心の問題を考えつつ、譲治が家業をめぐって争った体験を自省したなかで主張していた〈人への思いやり〉と平和への思いに焦点をあてて、冊子作成のテーマを設定しました。
その冊子は、童話「ケンカタロウとケンカジロウ」に登場する二人の少年が坪田譲治のこうしたテーマをめぐって案内するという形をとり、冒頭では次のように呼びかけています。
こんにちは! 僕たちは、坪田譲治さんが生み出してくれた童話「けんかタロウとけんかジロウ」のタロウとジロウです!
この冊子では、現代のみんなに譲治さんが文学のなかで描いた平和への願いを受け取ってもらえるように、譲治さんの作品に描かれた〈人への思いやり〉とそのあたたかなまなざしを僕たちが伝えるよ。
譲治さんは、「どんなことがあっても、人と争いをすまい」と思う経験が過去にあったんだって。けんかしていた僕たちを仲直りさせてくれたのも、そんな経験があったからなのかな。
じゃあ、はじめに譲治さんについて紹介するよ!
このようなページからはじまる本冊子は、『山陽新聞』の記事(2022年10月28日付)にも紹介されました。家業での親族間の争いや第二次世界大戦を冷静に見つめた譲治が、このような争いを越える他者への心をめぐるメッセージをその文学に込めて発していることを伝える冊子になっています。日本語日本文学科の学生には、毎年美術や音楽に長けた才能を生かしてくれる学生が多く、今回は著作権者の許諾のもとで、作品を紙芝居や漫画にし、作品から歌詞や振り付けなどを考案して体操を作り、冊子に生き生きとした彩りを与えてくれました。
こうした冊子に紹介した譲治作品の朗読を上演する行事については、今回も岡山市「学生イノベーションチャレンジ推進事業」に参加して、譲治の母校である岡山市立石井小学校をはじめゆかりの地が広がる石井中学校区での活動を実行しました。
その石井中学校区は、「坪田譲治のまち」というのぼり旗をあちこちに掲げた、譲治生家のある地元です。その地域から、今年度没後40年を迎えた坪田譲治を若い力で生き生きと現代に伝えてほしいと期待され、この地区の中心にある岡西公民館と共催した行事が実現しました。小学生低学年から高校生、ご高齢の方々まで、会場いっぱいに集まって歓迎してくださり、「ツボジョーワールド探検隊」は6年目の活動ですっかり地元に定着した感があります。その行事で、童話「けんかタロウとけんかジロウ」は紙芝居で、童話「きつねとぶどう」は紙人形劇で上演し、童話「ケイちゃんとかきのたね」から考案した体操も行ない、幅広く多様な年齢層の人々に文学の力が伝わるよう工夫して、譲治文学により地域の皆さんの心をつなげる実践をすることができました。
今年度の「ツボジョーワールド探検隊」の学生は、ちょうど年度はじめ頃にはじまったロシアのウクライナへの侵攻もあったことを憂慮し、混乱をめぐる人々の心の問題を考えつつ、譲治が家業をめぐって争った体験を自省したなかで主張していた〈人への思いやり〉と平和への思いに焦点をあてて、冊子作成のテーマを設定しました。
その冊子は、童話「ケンカタロウとケンカジロウ」に登場する二人の少年が坪田譲治のこうしたテーマをめぐって案内するという形をとり、冒頭では次のように呼びかけています。
こんにちは! 僕たちは、坪田譲治さんが生み出してくれた童話「けんかタロウとけんかジロウ」のタロウとジロウです!
この冊子では、現代のみんなに譲治さんが文学のなかで描いた平和への願いを受け取ってもらえるように、譲治さんの作品に描かれた〈人への思いやり〉とそのあたたかなまなざしを僕たちが伝えるよ。
譲治さんは、「どんなことがあっても、人と争いをすまい」と思う経験が過去にあったんだって。けんかしていた僕たちを仲直りさせてくれたのも、そんな経験があったからなのかな。
じゃあ、はじめに譲治さんについて紹介するよ!
このようなページからはじまる本冊子は、『山陽新聞』の記事(2022年10月28日付)にも紹介されました。家業での親族間の争いや第二次世界大戦を冷静に見つめた譲治が、このような争いを越える他者への心をめぐるメッセージをその文学に込めて発していることを伝える冊子になっています。日本語日本文学科の学生には、毎年美術や音楽に長けた才能を生かしてくれる学生が多く、今回は著作権者の許諾のもとで、作品を紙芝居や漫画にし、作品から歌詞や振り付けなどを考案して体操を作り、冊子に生き生きとした彩りを与えてくれました。
こうした冊子に紹介した譲治作品の朗読を上演する行事については、今回も岡山市「学生イノベーションチャレンジ推進事業」に参加して、譲治の母校である岡山市立石井小学校をはじめゆかりの地が広がる石井中学校区での活動を実行しました。
その石井中学校区は、「坪田譲治のまち」というのぼり旗をあちこちに掲げた、譲治生家のある地元です。その地域から、今年度没後40年を迎えた坪田譲治を若い力で生き生きと現代に伝えてほしいと期待され、この地区の中心にある岡西公民館と共催した行事が実現しました。小学生低学年から高校生、ご高齢の方々まで、会場いっぱいに集まって歓迎してくださり、「ツボジョーワールド探検隊」は6年目の活動ですっかり地元に定着した感があります。その行事で、童話「けんかタロウとけんかジロウ」は紙芝居で、童話「きつねとぶどう」は紙人形劇で上演し、童話「ケイちゃんとかきのたね」から考案した体操も行ない、幅広く多様な年齢層の人々に文学の力が伝わるよう工夫して、譲治文学により地域の皆さんの心をつなげる実践をすることができました。
岡山市「文学による心豊かなまちづくり」につながる活動
ちょうど岡山市がユネスコ創造都市ネットワークに文学分野で加盟申請を行うにあたってその弾みをつけることを期待された「ツボジョーワールド探検隊」は、その機運を盛り上げる「文学による心豊かなまちづくり」事業の一環となる活動にも及ぶことができました。私は、この事業を推進する委員会の部会部員となっていますが、同じくメンバーである本学児童学科の村中李衣先生とともに、「ツボジョーワールド探検隊」のテーマを福祉関係と国際関係に拡げることができました。
村中李衣先生は、児童文学作家として多くの作品を出版し、『あららのはたけ』によって坪田譲治文学賞で第35回受賞者となった作家です。しかも、文学の読みあいを通して、これまで病院や刑務所などで心の豊かさを回復させる活動や、国を越えて文学でつながる活動を実践されています。そうした村中先生に導かれ、「ツボジョーワールド探検隊」の学生は、高齢者施設(済生会ライフケアセンター)の入所者と交流し、人生の経験から抱いている思いを教えていただきつつ譲治文学からのメッセージを世代を超えて共有しました。また、全学科の学生が受講できる「自立力育成ゼミⅥ」を担当する村中先生は、韓国との交流を進める授業を数年来されており、その授業と協働し、韓国の日本語を学ぶ大学生(釜山外国語大学)との交流行事を行うことができました。韓国の学生も日本語と韓国語で韓国の昔話と伝承の朗読を披露し、国を越えて文学を核とした絆の構築が実現しました。
これらの活動は、コロナ感染対策のために、いずれもオンラインではありましたが、異年齢・異文化への新たな気づきや刺激を体感できました。特に韓国(釜山外国語大学)との文学交流は、『山陽新聞』の記事(2022年11月9日付)およびOHKニュース(https://www.ohk.co.jp/data/26-20221108-00000010/pages/)に取り上げられました。文学の力が現代の福祉の現場における活性化や海外との異文化理解につなげられることを新たに証明してくれ、学生たちが大きく成長できた活動でした。
最後に、この活動で伝えたい思いを語ってくれた学生たちの次の言葉を紹介して結びとしたいと思います。
「譲治文学が伝えた思いやりの大切さを共有して、みんなの生きる大切な社会をみんなで一緒に作っていきたいです。」
ちょうど岡山市がユネスコ創造都市ネットワークに文学分野で加盟申請を行うにあたってその弾みをつけることを期待された「ツボジョーワールド探検隊」は、その機運を盛り上げる「文学による心豊かなまちづくり」事業の一環となる活動にも及ぶことができました。私は、この事業を推進する委員会の部会部員となっていますが、同じくメンバーである本学児童学科の村中李衣先生とともに、「ツボジョーワールド探検隊」のテーマを福祉関係と国際関係に拡げることができました。
村中李衣先生は、児童文学作家として多くの作品を出版し、『あららのはたけ』によって坪田譲治文学賞で第35回受賞者となった作家です。しかも、文学の読みあいを通して、これまで病院や刑務所などで心の豊かさを回復させる活動や、国を越えて文学でつながる活動を実践されています。そうした村中先生に導かれ、「ツボジョーワールド探検隊」の学生は、高齢者施設(済生会ライフケアセンター)の入所者と交流し、人生の経験から抱いている思いを教えていただきつつ譲治文学からのメッセージを世代を超えて共有しました。また、全学科の学生が受講できる「自立力育成ゼミⅥ」を担当する村中先生は、韓国との交流を進める授業を数年来されており、その授業と協働し、韓国の日本語を学ぶ大学生(釜山外国語大学)との交流行事を行うことができました。韓国の学生も日本語と韓国語で韓国の昔話と伝承の朗読を披露し、国を越えて文学を核とした絆の構築が実現しました。
これらの活動は、コロナ感染対策のために、いずれもオンラインではありましたが、異年齢・異文化への新たな気づきや刺激を体感できました。特に韓国(釜山外国語大学)との文学交流は、『山陽新聞』の記事(2022年11月9日付)およびOHKニュース(https://www.ohk.co.jp/data/26-20221108-00000010/pages/)に取り上げられました。文学の力が現代の福祉の現場における活性化や海外との異文化理解につなげられることを新たに証明してくれ、学生たちが大きく成長できた活動でした。
最後に、この活動で伝えたい思いを語ってくれた学生たちの次の言葉を紹介して結びとしたいと思います。
「譲治文学が伝えた思いやりの大切さを共有して、みんなの生きる大切な社会をみんなで一緒に作っていきたいです。」