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日本語日本文学科

2022.10.16

《特殊文庫の魅力》第5回「もしも“和本”に出会ったら」|日本語日本文学科 野澤真樹

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日文エッセイ

本学特殊文庫には、本学国文科(現・日本語日本文学科)の教授であった故・正宗敦夫氏の旧蔵書からなる正宗敦夫文庫、江戸時代を代表する国学者である黒川春村・真頼・真道の旧蔵書を収める黒川文庫を中心とし、貴重な古典籍が多く所蔵されています。特殊文庫の資料を授業や自身の研究に活用している日本語日本文学科の教員が、全10回にわたって「特殊文庫の魅力」を発信します。

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《特殊文庫の魅力》第5回「もしも“和本”に出会ったら」
日本語日本文学科 講師 野澤真樹


 江戸時代以前の本のことを「古典籍」と言います。これは本連載ですでに何度も出てきている言葉です。正確にいえば、本学特殊文庫には明治時代以降の資料も収蔵されていますし、明治時代に作られた本でも、江戸時代以前と見た目がよく似たものがあります。それらを含め、和紙が使われた日本風の装訂(綴じ方)の本のことを「和本」と呼ぶこともあります。

 さて、皆さんの目の前に、ある日突然「和本」が現れたら、どうしますか。町の古本市や、古い民家の蔵など、意外と和本は身近にあるものです。持ち主が自慢の和本を「触ってみませんか」と言ってくれたとします。人によっては「なんだか壊してしまいそうで怖いのでけっこうです」と断りたくなるかもしれません。
 

古本屋で購入した和本

古本屋で購入した和本

 でも、和本は怖いものではありません。もちろん、研究者でも手が震えるほど貴重で高価な和本はあります。しかし、古書店で数百円で売っている和本も、世界に一点しかない珍しい和本も、さまざまな持ち主の手から手へと受けつがれてきたものです。それらは私たちが中を覗いてくれるのを待っているはずです。和本を傷つけるような触り方でさえなければ、むしろ定期的に丁をめくることが(和本のページを「丁」といいます)、本の劣化を食い止めることにもなります。


 簡単な注意事項とはいえ、初めのうちは緊張するでしょう。基本的な考えかたは、「資料の現状を維持する」ことです。和本の多くは長い年を経ていて、状態が悪化しているものも少なくありません。その本ができるだけ長く、後の時代の人に受けつがれることを願って、今よりも状態が悪くならないよう大切に扱うことが一番です。これは別に和本に限ったことではなく、私たちの身の回りのもの全般に言えることかもしれません。

 和本の触り方がわかったら、次は特殊文庫の書庫内を探索してみましょう。


 気になった本はありましたか?

 和本を手にとったら、一体どんな本なのか、何が書いてあるのか、中身を見て確認してみましょう。運が良ければ、表紙からタイトルがわかりますが、タイトルを書いた紙(「題簽(だいせん)」)がはがれていることもありますし、そもそも表紙にタイトルがないこともあります。有名な作品なら、冒頭の文章を読めばすぐにわかるでしょう。有名でなくとも、本の素性を知るためには内容を読んで判断する必要があります。

 本の素性を知るために大切な要素は他にもあります。それは本が誰から誰に受けつがれ、今ここにあるのかということ、つまり本の「伝来」を示す情報です。もっとも頼りになるのは、たいていの場合、本の最初の丁に捺された「蔵書印」です。

 たとえば、この『南総里見八犬伝』(I60)には「正宗敦夫文庫」の印があります。
 

蔵書印「正宗敦夫文庫」

蔵書印「正宗敦夫文庫」

刊本の刊記

刊本の刊記

 複数の蔵書印があれば、それぞれを確認し、蔵書印データベース(注1)などで持ち主を調べます。すると持ち主の生没年などの情報から、その本がたどったルートがわかることがあります。
 
 それと、和本の素性を調べたいと思ったなら、ぜひ最後の丁を見てみてください。複数冊からなる資料ならば、最後の冊の最後の丁です。そこにも重要な情報が示されていることがあります。江戸時代の刊本(印刷された本)なら多くの場合、最終丁に刊行年と出版元の本屋の名が記されています。

 写本(手書きで書写された本)の場合も、資料の末尾にはさまざまな情報があります。例えば、次の『伊勢物語真名歌』(正宗敦夫文庫・I51)という資料の場合は・・・

 

『伊勢物語真名歌』

『伊勢物語真名歌』

『伊勢物語真名歌』識語

『伊勢物語真名歌』識語

 最後の丁に「桐箱上蓋/綱政公/侍従様御筆/伊勢物語/トアリ昭和二十九年十月/正宗敦夫記」とあります。
そして、この資料には、同じ情報が記される桐箱が一緒に保管されています。

 この資料は昭和29年の頃、正宗敦夫氏のもとに、「池田綱政公(注2)の自筆本」であることが記された桐箱とともに寄贈され、後に本学特殊文庫に贈られたものとわかります。本そのものの素性だけでなく、誰がその本を必要とし、手にしてきたのかということも、和本の歴史を知るために欠かせない情報です。
 
 もしも皆さんが和本を触る機会に恵まれたなら、怖がらずに手にとってみてほしいと思います。その本を大切に扱うだけでなく、その本のたどってきた歴史を知ることも、資料を長生きさせるための一つの助けになるのではないでしょうか。
 

『伊勢物語真名歌』桐箱の上蓋

『伊勢物語真名歌』桐箱の上蓋

特殊文庫内 正宗敦夫氏肖像

特殊文庫内 正宗敦夫氏肖像

注1 国文学研究資料館 電子資料館「蔵書印データベース」
https://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/
注2 江戸時代前期から中期の備前岡山藩主。寛永15年(1638)生、正徳4年(1714)没。池田光政の長男にあたる。

附記
本記事は2022年度学長裁量経費教育改革研究助成金「「ノートルダム清心女子大学」特殊文庫目録」改訂に向けての資料整理および調査・研究」を受けての研究活動の一環として作成・公開しています。


ノートルダム清心女子大学附属図書館「特殊文庫」紹介ページ

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