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日本語日本文学科

2022.10.01

文字散歩2|家入博徳|日文エッセイ228

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日本語日本文学科

日文エッセイ

【著者紹介】
家入 博徳(いえいり ひろのり)
書道担当

書道史・文字表記史を研究しています。
 
文字散歩2

本学の所在は岡山県であり、県内およびその近県には書に関する重要な作品が多数点在する。本学の特殊文庫には、書の観点からも重要な作品が所蔵されているが、香川県立ミュージアム(香川県高松市玉藻町5-5)に所蔵されている藤原佐理筆『詩懐紙』(注1)は、現在国宝に指定されている、大変貴重な書作品である。

藤原佐理筆『詩懐紙』「「高松松平家歴史資料」(香川県立ミュージアム所蔵)」

藤原佐理筆『詩懐紙』「「高松松平家歴史資料」(香川県立ミュージアム所蔵)」

翻刻は以下の通りである。

暮春同賦隔水花光合応
    教一首絶句為躰倭漢任意
     右近権少将佐理
花脣不語偸思得隔
水紅桜光暗親両岸
芳菲浮浪上流鶯
尽日報残春


桜の花を中心に、鶯や水といった景色を題材に暮春を詠んだものである。中島壌治は、詩会の主催者であり、佐理の祖父でもある太政大臣実頼を慰め励ます歌であると解釈する(注2)
制作者である藤原佐理(944年~998年)は、能書(書をよくする人)として存命当時より活躍している。『大鏡』には(注3)、「佐理大弐、世の手書の上手」、「おほよそこれにぞ、いとど日本第一の御手のおぼえはとりたまへりし」と述べられており、『夜鶴庭訓抄』の「又内の額書人々」、「能書人々。」の項目で(注4)、「佐理。左大弁。」と、名を連ねている。現在、小野道風、藤原行成とともに「三蹟」と称され、今日においてもその書跡は手本として用いられている。『才葉抄』には(注5)

むかしの手書には道風。佐理。行成。此三人を能書と宣り。此三人に三徳三失有也。道風は強く書て少し俗道也。強きは徳。俗道は失也。佐理はやさしくしてよはし。やさしきは徳。よはきは失也。行成は打付に愛敬有て。手の少し正念なき也。愛は徳。無正念は失也。(p.151)

と、三人を「能書」と称した上で、それぞれの書の長所・短所が述べられており、『入木抄』には(注6)

佐理行成は道風が体をうつしきたる。野跡。佐跡。権跡。此三賢を末代の今にいたるまで此道の規摸としてこのむ事。面々彼遺風を摸也。仍本朝の風は不相替者也。(p.163、164)

と三人を「三賢」と称している。
この『詩懐紙』は、佐理が二十六歳に制作したことが明らかとなっている。『日本紀略』の「冷泉天皇安和二年三月十四日条」に、「十四日。勅答不許。太政大臣移座花下。賦一絶。隔水花光合。」とあることによる。

では、詳しく『詩懐紙』の文字の形を見てみることにする。文字をよく見てみると、かなり慎重に書いたと考えられる形跡がある。
例えば、漢詩一行目「得」や漢詩三行目「浪」の偏の右上にはねる線を見てみると、軽やかに跳ねている線ではなく、線を引き続けているかのように丁寧に書いている。
 

「得」

「得」

「浪」

「浪」

また、漢詩三行目「芳」を見てみると、下部の「方」のはねる線は、途中まで細くなるものの、再び太く書いており、あたかも何かを見ながら書き写しているかのような慎重な書きぶりである。

「芳」

「芳」

もちろん、他の文字においてスピード感が見られる線もあるが、全体的には丁寧で慎重な書写態度である。これらのことから、かなり字形を意識して書いたものと思われ、先述の『入木抄』に「佐理行成は道風が体をうつしきたる」とあるように、意識の先が小野道風の書であったこともその書風から伺えるのである。さらに、このような丁寧で慎重な書写態度から、当時から書の巧みさが求められ、佐理自身もそれを意識していたと考えられる。

香川県立ミュージアムでは、昨年に続き、今年のゴールデンウイークに展示がされており、比較的鑑賞しやすい環境にある。貴重な書作品を直接鑑賞することで、さらに多くのことが見えてくるのではないだろうか。


1 『日本書道辞典』によると、「詩懐紙」とは、「多くの人々が一所に参集して作詩に興ずる詩会において、それぞれ一定の題のもとに自詠の詩を書いて提出した清書本を詩懐紙という。」とある。(二玄社 昭和62年)
2 中島壌治『藤原佐理研究』(桜楓社 平成3年)
3 『新編日本古典文学全集』34(小学館 平成8年)
4 『続群書類従』第三十一輯下雑部(昭和33年)
5 『群書類従』第二十八輯(昭和34年)
6 『群書類従』第二十八輯(昭和34年)


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