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日本語日本文学科

2022.06.02

カクヒツって何だろう?-そこにあるのに気づかない角筆の世界-|近藤友子|日文エッセイ224

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日本語日本文学科

日文エッセイ

【著者紹介】
近藤 友子(こんどう ともこ)
図書館情報学 司書課程担当

図書館における障害者サービスについて研究しています。
 
カクヒツって何だろう?
-そこにあるのに気づかない角筆の世界-

1.角筆とは「カクヒツ」と読む
 角筆とは「カクヒツ」と読みます。「カクヒツって何?」と思われる方も多いのではないかと思います。私も角筆のことを知ったときは「カクヒツって何だろう? どんなものなのかな。」と思っていました。
 角筆とは木や竹、象牙などで作られた先端部分が尖った筆記具です。お箸のような形状を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。但しお箸のように二本ではなく、一本での形で想像してみてください。鉛筆を持って文字を書くように、角筆も尖った先端で紙の表面などを凹ませて文字や線などを記します。
 墨やインクなどを使用せず、面を凹ませて記すため、表面上は何も書いてないように見えますが、よく見ると凹んだ線が文字であったり、絵の下描きを表していることがあります。凹んだ文字は1文字か、数文字程度のものが多く、その文章に対する注意書きのようなものだと考えられます。下描きの線も、本番の線を書くために少し描いてみた線のように見えます。
 現代でも本などに書き込みをするときには鉛筆などで少し書き込んだり、あるいは付箋を貼ったりしますが、角筆は現代の鉛筆に似た書き込みの道具であったのではないでしょうか。江戸時代などでは旅行に行くときに携帯して利用されていたようですが、墨を用いないため便利な道具であったと思います。

2.角筆と角筆文献
 角筆とは先端が尖ったお箸に似た形状の筆記具であると書きましたが、角筆で紙の面を凹ませて書かれた文字などを含んだ文献を「角筆文献」と呼んでいます。私は角筆文献の存在を知ったときに「角筆文献を手に取って見てみたい!」と思いましたが、どこで角筆文献を見ればいいのか、所蔵している図書館はどこなのか、どうやって調べればいいのか、などわからないことばかりでした。
 図書館の資料は、オンライン目録などを用いて検索し、見たい資料を所蔵している図書館を探したり、閲覧や複写の可否を確認して資料利用へとつなげていきますが、角筆で文字が書きこまれた角筆文献の資料名は何であるのか。そもそも文献のどのページに、どのような文字が書かれているのか、そして角筆で書かれた文字をどうやって見つけるのか。考えれば考えるほど疑問点ばかりでしたが、その反面、文献資料のなかに角筆の世界が広がっていることにワクワクし、気づいていない、忘れられた世界が身近に存在しているのではないかと感じてきました。

3.気づかない、気づきにくい角筆の世界
 角筆文献は江戸時代後半の文献に見られることが多く、私が初めて角筆文献を見たときは、和紙の表面上にある凹みがわかりづらくて、その文字が何を意味しているのか、なぜそこに文字が刻まれているのかとても不思議に思いました。凹んだ文字がとても見えにくくわかりづらいという最初に感じた印象では、紙の表面上に墨やインクを用いてはっきりとした形状が見て取れるわけではなく、紙の面になんだか引っ搔いたような傷跡に似た感じの文字(?)であろうものが記されているので、慎重によく見ないと見落としてしまいそうでした(参考写真1)。凹み文字であるため、光のあたり具合でその陰影に違いが出て、文字や線などが記されていること自体に気づかず、見落としてしまいます。このように角筆で記された文字などを探すこと自体がとても難しいといえるのが角筆文献の特徴ではないかと思います。

参考写真1:角筆で書かれた文字(?) 【『妙法蓮華経』巻第五(個人蔵)】 (文字と文字の間にある角筆で書かれた文字(?))

参考写真1:角筆で書かれた文字(?) 【『妙法蓮華経』巻第五(個人蔵)】 (文字と文字の間にある角筆で書かれた文字(?))


 紙の面上に何か凹みや刻みのようなものがないかを、角度をかえながら文字を探していきますが、角度によって光の陰影がしっかりと出て文字の凹みに気づくことができたり、逆に凹みの部分にあまり陰影ができず、よほど注意して紙面上をしっかり見ないと気づかない場合がある、と言ったほうがわかりやすいかもしれません。電灯の光よりは太陽光のほうが文字に気づきやすく、ときには窓辺に古い文献を持って立ち、太陽光を直接紙面にあてないように気を付けながら、しかし太陽光を拾いつつ、存在しているかもしれない文字を探す作業を続けます。とても根気のいる作業ではありますが、角筆で書かれた文字を見つけたときはとても嬉しいものです(参考写真2)。

参考写真2:角筆で書かれた文字(?) 【『妙法蓮華経』巻第五(個人蔵)】 (墨字の上にうっすらと角筆で書かれた文字(釋?))

参考写真2:角筆で書かれた文字(?) 【『妙法蓮華経』巻第五(個人蔵)】 (墨字の上にうっすらと角筆で書かれた文字(釋?))

4.角筆を知ってもらうために
 角筆や角筆文献はまだまだ知られていない存在であると思います。光源による見えやすさの違いや、さまざまな文字や線の形状についてなど、角筆文献も奥深いものを持っています。以前に本学のブログでも紹介しましたが(*末尾の注記を参照)、 オンライン上で角筆についての紹介を行ったことがあります。また昨年には岡山県内の図書館で角筆文献の調査を開始しました。実は意外と身近なところに角筆の世界が存在しているかもしれないことがわかってきましたが、これからは写真やデジタルデータも活用しつつ、角筆で書かれた文字などの保存も進めたいと考えています。
 多くの人に角筆を知ってもらえるようにこれからも調査を続けて、このブログで報告できるように努めたいと思っています。 


*日文エッセイ208「オンラインで楽しむ展示会:図書館総合展オンラインに参加して」を参照

近藤友子准教授(教員紹介)
日本語日本文学科(学科紹介)
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