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日本語日本文学科

2022.05.01

大学生のレポートはカタチもだいじ-日本語力で社会に貢献-|尾崎喜光|日文エッセイ223

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日本語日本文学科

日文エッセイ

【著者紹介】
尾崎 喜光(おざき よしみつ)
日本語学担当

現代日本語の話し言葉の多様性に関する社会言語学的研究。
日本語の男女差、年齢差(加齢変化)、地域差(方言)、方言と共通語の使い分け、敬語行動、
現在進行中の言語変化、韓国語との対照言語行動研究など。研究テーマも多様。
 
大学生のレポートはカタチもだいじ
-日本語力で社会に貢献-

レポートにカタチがある?
 大学生になると授業の課題としてレポートを書くことが多くなります。
 私もいくつかの授業で学生たちにレポートを書かせています。
 言うまでもなくレポートは内容が重要です。皆さんもそう思うでしょう。しかし、それとともに重要なのはレポートのカタチ(形)です。
 と言っても、レポートは言葉で書かれているので、そこに物理的な形があるわけではありません。ここで言う「カタチ」とは、内容を表現するのに使うコトバのことです。
 つまり、あることについてレポートとして書くとき、<レポートにふさわしいコトバ>というものがあり、それをきちんと選んで書くことも重要だということです。

ちょっと考えてみると…
 じつはこのことは、ちょっと考えてみるとほぼ直観的に理解できます。
 たとえば「分かる」という動詞で考えてみましょう。
 「分かる」の否定形は「分からない」です。しかし、ふだんの話し言葉では、「分からない」の「ら」を「ん」にした「分かない」もよく使います(じつはこのときアクセントも少し変化していますが、それに気づいた人は研究者に向いています!) 岡山では「分から」とも言いますよね。
 しかし、もしレポートで、「現時点ではいまだよく分からない」を、「現時点ではいまだよく分かない」とか「現時点ではいまだよく分から」と書いたとしたらどうでしょうか? 「それはやっぱり変だよね」と直感的に思いますよね(「やっぱり」もレポートでは変です)。レポートであるならば、ここはやはり「現時点ではいまだよく分からない」とすべきだと直感的に思うでしょう。
 このことから、日常の話し言葉ではふつうに使っていてもレポートでは避け、別の言葉で表現するのが適切なケースというのがいろいろありそうだ、ということが分かるかと思います。
 ちなみに、先ほどの例文の「現時点」を「今」に、「いまだ」を「まだ」に言い換えることも可能です。しかしいずれも、後者よりも前者の方がよりレポートらしい表現だと感じると思います。

私のレポート指導は…
 私の専門は日本文学ではなく日本語学です。言葉で表現された内容や作品よりも、言葉そのものに昔から関心がありました。(ちょっと変人?)
 だからというわけでもありませんが、私のレポート指導は、書かれた内容以上に書き方(特に言葉の選択や語順、読点の打ち方)にウェイトを置いたものとなっています。学生とすれば「内容についてもっと指導してください」と思うかもしれませんが、そこは他の教員の指導にゆだね、あきらめてもらっています。
 1年次生が必ず履修する「基礎演習」という科目があります。私も「日本語学基礎演習」という科目を担当しています。
 どの「基礎演習」でも「読書ノート」(ブックレポート)を月1回提出させています。私の場合、以前は紙のノートに書かせて提出させていましたが、コロナ禍以来ワードで作成させ、それをメール添付で提出させています。
 提出後のコメントをどうするかは各教員の裁量にゆだねられていますが、私の場合は、ときに学生のレポートの文字数以上にコメントを多数電子的に付け、それを返信しています。受け取った学生は、そのコメントを読みながら修正版を作成し、それを再度私に送らせています。こうした作業を半年(4回)行います。学生もしんどいでしょうが、学生数が多いと教員もけっこう大変です。コメントのほとんどはカタチについてです。

たとえばどんなコメントか?
 カタチについて、たとえば次のようなコメントを付けています。矢印の右側は私のコメントです。

・「日本社会はずっと以前から(後略)」→ 「ずっと」は話し言葉的であるため「はるか昔から」等とする。
・「まるで自分が日本に住んでいて(後略)」→ 「まるで」は話し言葉的であるため「あたかも」等とする。
・「(前略)と危機感を抱いていたので、本書を読んで安心した。」→ 「ので」は丁寧語な話し言葉。「ため」等とする。
・「しかし、本書を読んで、(後略)」→ レポート・論文では連用中止形の「読み」とする方がよい。
・「しかし、著者は、本当に(中略)かと疑問を抱き、」→ 「抱き」はやや文学的表現。「持ち」等とする。
・「(前略)と感じることもおかしくないと思った。」→ 「な」は削除。レポート・論文では終助詞を使わない。


 こんな調子で進めているため、レポートの最後までコメントが到達することはまずありません。コメントできなかったところは、それまでのコメントを参考にして自力で推敲させています。
 じつは1回目の提出が終わった頃の授業で、レポートの書き方に関するテキストの一部を用いて、こうしたことの指導をしています。テキストを読みながら講義するだけでもよいのかもしれませんが、自分の文章について具体的に指摘を受け、指摘どおりでもよいからもう一度書き直すという作業をする方が学生たちの中に定着するだろうと考え、このようなことを4回行なっています。その結果、4回目には学生たちの文章もだいぶ大学生のレポートらしくなってきます。

本学の日本語日本文学科で学ぶメリット(1)……小規模大学だからこそ
 日本語表現のこんなこまかいところにまでコメントを付けている教員は少ないかもしれませんが、本学科の教員は、注目点こそ異なりますが、学生たちのレポートを丁寧に読み、必要なコメントや励ましをしっかり付けて返しています。
 これは、小規模な大学だからこそできるメリットです。首都圏や関西圏には大きな大学がたくさんありますが、教員の人数がそれに比例して多くなるわけではありませんので、学生一人一人に丁寧な指導をするのは困難です。小規模な本学だからこそそれができます。

本学の日本語日本文学科で学ぶメリット(2)……日本語と日々向き合うからこそ
 大学で英語を学んで語学力を高めれば将来の就職に有利になります。栄養学を学んでその関係の資格が取れば、これも就職に有利になります。
 では、日本語日本文学科での学びはどうでしょうか?
 教職課程や司書課程等を履修している場合を除けば、残念ながら卒業後の就職に直結するような学びではありません。
 しかし、日々レポートを書き、自分で書いたその日本語表現に意識的になりやすいのが日本語日本文学科の学生です。的確な表現力と論理的思考力が鍛えられます。それはさまざまな分野で必要とされる力です。特定の分野への就職に有利ということこそありませんが、幅広い分野で活かされる総合的な力なのです。
 あなたも日本語力で社会に貢献する未来をめざしませんか?

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