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現代社会学科

2021.07.21

農業がつなぐ、農業でつながる(その2)|現代社会学科|二階堂裕子教授

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現代社会学科

学科ダイアリー

社会連携・研究

社会連携

 「地紅茶」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 これは、日本国内で栽培された茶葉を加工した紅茶を指します。紅茶の生産地といえば、インドやスリランカを思い浮かべるかもしれませんが、実は日本国内でも栽培されているのです。
 
 しかも、その歴史は長く、明治期に輸出振興政策として国内での紅茶の生産が本格的に始められました。紅茶の生産量は高度経済成長期の1955年にピークを迎えますが、その後、安い外国産の輸入紅茶との価格競争にさらされた結果、国内における紅茶の生産は大きく衰退することになりました(大石 1983)。

 けれども、近年、地紅茶の人気が高まっており、全国各地で生産者も増えつつあります。国内の紅茶生産地は、2008年に26都府県95ヶ所であったのが、2020年には45都府県815ヶ所となり、わずか12年間に8.6倍も増加しています(全国地紅茶サミット世話人会 2020)。
 
 また、よく似た意味合いをもつ「国産紅茶」や「和紅茶」ではなく、「地紅茶」と表現するとき、そこには、その土地が育む特有の味や香りを活かした紅茶の生産を通して、地域づくりを積極的に進めようという意図が込められているようです(全国地紅茶サミット世話人会 2019)。そして、各地の生産者らは、年に1回開催される「全国地紅茶サミット」(第1回は2002年)や「地紅茶学会」(2018年設立)などを通じてつながりながら、低迷する茶産業や生産地の活性化、世界のお茶文化の発展に、精力的に取り組んでいるのです。

 岡山県中西部に位置する高梁市で、「高梁紅茶」を生産している「百姓のわざ伝承グループ」も、そうした生産者です。

高梁紅茶

高梁紅茶

 代表の藤田泉さんは、有機農法による茶葉の栽培と加工、紅茶の販売に携わる一方で、全国地紅茶サミット世話人会の1人として、地紅茶の魅力発信に尽力してこられました。

 彼は、サラリーマンをやめて農業を始めた新規就農者です。当初、思い通りの紅茶を作ることができなかった藤田さんは、全国地紅茶サミットで知り合ったベテランの生産者からノウハウを学びつつ、品質向上に努めたといいます。
 彼がつながりを求めたのは、紅茶の生産者だけではありません。百姓のわざ伝承グループの活動拠点は標高460mの吉備高原にあり、この地域では昼夜の激しい寒暖差を活用して古くから茶葉が栽培されてきましたが、生産者の高齢化にともなって耕作放棄された茶畑が年々増えています。
 そこで、藤田さんは、「荒廃茶園再生プロジェクト」を立ち上げ、地域住民や県内の大学へ通う学生らに参加を呼びかけて、すっかり「やぶ」と化した畑の整地をおこない、かつての美しい茶畑をよみがえらせたのです。

藤田泉さんの指導を受けながら収穫する学生                  (2020年7月19日二階堂撮影)

藤田泉さんの指導を受けながら収穫する学生                  (2020年7月19日二階堂撮影)

 ある会合で藤田さんと知り合ったことがきっかけとなり、私とゼミの学生も2012年からこのプロジェクトに参加させていただきました。
 私も学生も、それまでに農作業の経験がなく、紅茶が緑茶やウーロン茶と同じ茶樹の葉を加工したものであることすら知りませんでした。けれども、「茶畑を再生し、紅茶づくりを通して高梁のまちを元気にしたい」という藤田さんの情熱に感銘を受け、茶畑の復活に向けた取り組みに加わることを決めたのです。見事に茶畑が再生されたあとも、私と学生の「高梁通い」は続き、茶葉の収穫や加工をおこなってきました。

収穫した茶葉の加工作業                               (2020年7月19日二階堂撮影)

収穫した茶葉の加工作業                               (2020年7月19日二階堂撮影)

 さらに、2019年以降は、百姓のわざ伝承グループ、二階堂裕子ゼミナール、本学食品栄養学科の吉金優ゼミナールが協働して、高梁紅茶の新たな商品開発に取り組んでいます。

 では、それまで農業とは無縁であった私たちが、なぜこのように高梁紅茶との関わりを持ち続けているのでしょうか。

 まず、茶畑や加工場での作業そのものの楽しさをあげることができます。なかでも、新芽の緑がまぶしい季節に、みずみずしい茶の香りに包まれながら行う収穫作業は、何ともいえない幸福感をもたらしてくれるのです。
 次に、自分たちがいただくお茶を自らの手で作り出す喜びがあります。特に都市で生活する人々の多くにとって、自分が口にするものを自作する機会はきわめて乏しいからでしょう。

 これらに加えて、紅茶づくりをきっかけに、年代、職業、居住地や経歴などの異なる多くの人々と知り合い、同じゴールをめざしてともに働く経験ができることも、この取り組みが私たちを惹きつけてやまない理由です。
 「食べること」や「飲むこと」は、すべての人に共通する大切な営みであり、食生活の根源である農業を結び目として、多様な人々とつながることができる。それによって、いろいろな生き方や価値観があることを、私たちは学んできました。農業は、食べ物や飲み物だけではなく、それまで関わりのなかった人々のあいだの新たなつながりや連帯する力を創造する可能性を秘めているのかもしれません。
 

本学と共同開発した高梁紅茶

本学と共同開発した高梁紅茶

参考文献
大石貞男 1983 『日本茶業発達史』農山漁村文化協会
全国地紅茶サミット世話人会 2019 『ニッポンの地紅茶完全ガイド』エイ出版社
全国地紅茶サミット世話人会 2020 「全国地紅茶マップ2020」

現代社会学科
二階堂裕子教授(教員紹介)

全国地紅茶マップ2020(2021年7月12日参照)(PDFファイル)

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