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日本語日本文学科

2006.09.01

図書館見学|神原 俊治|日文エッセイ35

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第35回】2006年9月1日

図書館見学
著者紹介
神原 俊治(かんばら としはる)
図書館学・司書課程担当
図書館を活用した資料と情報の探索方法を探究しています。

私が担当する科目「図書館概論」の履修生を対象にして、授業で紹介する図書館を実際に「自分の目で見、鼻で臭いを嗅ぎ、その場の雰囲気を肌で感じて欲しい」から、また、見学することによって学生自身が利用している図書館とどこがどう違うのか比較して欲しい、という思いから、2005年度より図書館見学を実施しています。今回は滋賀県立図書館と東近江市八日市図書館(旧八日市市図書館)の見学を、2006年6月11日(日)に行いましたのでその紹介をします。

滋賀県立図書館の概要は次のとおりです(数字は「日本の図書館2005」日本図書館協会による)。
奉仕人口:1,354千人、 蔵書冊数:1,075千冊(0.78冊/県民1人あたり)
職員数:30人(うち司書資格26人) 購入図書冊数:40,097冊
2005年度図書購入予算:105,000千円  延べ床面積:12,660㎡
図書館設置率:87.9%  県民1人当たりの貸出数は8.377で日本一
1980(昭和55)年4月、前川恒雄氏が滋賀県立図書館の館長に就任した当時、県内の図書館は4市町村のみで、県庁所在地の大津市にも無く図書館設置率最下位の状況で「図書館後進県」といわれていたそうです。

当時の県知事・武村正義氏はこの閉塞感を打開するため、日野市立図書館で多大な業績を残していた前川氏をヘッドハンティングして県立図書館長に迎えます。ここから滋賀県の飛躍が始まります。
前川氏の提言により県内市町村が図書館を設置する場合、建設費・図書費の補助をおこなうことを盛り込みました。これが翌1981年から実施されますが、当初はなかなかこれを利用したいと申し出る市町村はなかったようですが、県立図書館などの働きかけが実を結び、徐々に設置率も上昇します。ただし、これには条件がありました。館長あるいは館長予定者は、司書の資格が必要であり、当然実務経験者でなければならないとし、また、職員も一定数の有資格者確保を義務づけたのです。

その他にも、市町村の図書館との連絡を密にすることや貸出資料を運搬するために、協力車の運行を開始したり、滋賀県関係の新聞記事索引作成などにも着手しています。

館長や職員に司書資格を義務づけることは、今も当時も高いハードルと思える条件ですが、これが以後の図書館設置に好影響を与えたといえます。その代表的な図書館が次に紹介する八日市市図書館(現・東近江市八日市図書館)ではないでしょうか。ちなみに、図書館の設置率は、1975年4%、1980年18%、1990年28%、1995年42%、2000年72%と上昇しています。

なお、滋賀県立図書館では、前川氏以後、澤田正春氏、梅沢幸平氏と司書資格を有した実務経験者が勤めており、館長が20年以上にわたって有資格者であるのは滋賀県だけです。県立図書館の役割・機能を十分ふまえた実務経験豊かな人物がトップに座ることにより、県内の図書館事情は変わることが証明されたといえます。

JR瀬田駅からバスで約10分「文化ゾーン」といわれる閑静な場所にありました。エントランスホール正面には新聞閲覧用と思われるスペースがあり、ソファに座って新聞を読む人がいて、ホール左手にはカウンターがあり、図書資料を持った人の行列が見えました。一瞬"ここは図書館?"と疑ってしまった、それほど図書館らしくない光景でした。よく見るとカウンター横に通路があり、その奥には児童閲覧室があり多くの親子連れがいました。2階に上がると、成人用の一般図書が排架してあるスペースと、反対側には滋賀県関係の郷土資料を排架したスペース、調べものが出来る参考図書コーナー、共通に案内の出来るカウンターがありました。区切り壁の多い、何か細切れした"図書館"という印象を与えます。しかし、貸出カウンターの担当者は汗だくで対応しているし、1人ひとりに声をかけながら笑顔で対応しているし、また、郷土資料関係のカウンターでも切れ目無く来館者がいて、特に利用券などの発行手続きをしており、ここでも担当者が分かり易く丁寧に説明を繰り返している。それにしても使い勝手の悪い建物ではないか。それをカバーするように職員が頑張っているのだと、とても奇妙なアンバランスを感じる図書館でした。

続いて、東近江市八日市図書館を見学しました。ここは2005(平成17)年2月、1市4町の合併により東近江市が誕生し、現名称になっています。

合併前の八日市市図書館概要
奉仕人口:43千人  蔵書冊数:310千冊  職員:9人(うち司書資格9人)
購入図書冊数:13,289冊  2003年度図書購入決算:21,000千円
延べ床面積:2,289㎡

近江鉄道・八日市駅から歩いて約15分の場所に八日市図書館があります。1985年に開館してから21年が経過しており、図書館前の樹木も鬱蒼と茂っていました。

当時の八日市市は、設置に当たって上記の県補助を利用するため、図書館準備室長に大阪府の図書館で活躍していた西田博志氏をヘッドハンティングしています。開館前、「図書館を造っても利用者はいない」と陰口をたたかれたそうですが、オープンすると多くの利用者が、市内だけでなく近隣の
町からもあり大盛況。当初このような状況でしたので八日市図書館では、近隣の住民にも図書館利用カードを発行し対応します。「要求される資料は草の根分けても探しだし提供する」姿勢が利用者に受け入れられ、貸出冊数は短時日で日本一を争うまでになりました。このことから近隣の市町村でも住民から図書館設置の要望が出され、次第に整備されるようになります。

見学当日も親子連れ、こども同士など多くの利用者が出入りをしていました。上記写真のように一部2階建てですが基本的にはワンフロアです。天井が高めにしてあるので割合明るい感じでした。新聞雑誌閲覧用のブラウジングコーナー、こどもコーナー、調査コーナー、成人用書架、などが判りやすく配置され、各書架は綺麗に前揃えがしてあり、職員の気配り目配りがうかがえ、利用のしやすい図書館という印象を持ちました。また書架の案内表示も「暮らしに役立つ本」、「暮らしを豊かにする本」とか「お年寄りの問題を考える本」など、NDC(日本十進分類法)の項目だけを表示するのではない工夫も見られ、暖かみも感じられました。選書のしっかりした品揃え、訓練の行き届いた職員(司書)、そして何よりも「利用して頂いてありがとう」という気持ちのこもった図書館でした。ここでも西田氏の後を受け継いだ館長さんは、有資格者でした。

2005年4月現在、滋賀県内の市町村立図書館数は、分館を含め45館あり、そのうち有資格者の館長を頂いている図書館は28館(62%)です。ちなみに岡山県は58館中15館(25.8%)。

県の熱意・姿勢がそのまま市町村へ伝わり、住民へ伝わっています。ここまでの信頼関係を構築した前川氏をはじめ、歴代の図書館長と市町村図書館関係者、それをサポートした県知事、県関係者の努力は並々ならぬものがあり、高く評価されます。

他の都道府県も見習って欲しいという願いを込めて、次年度の講義も「滋賀県の図書館」を紹介し、できれば見学も組み込みたいと思っています。その図書館の歴史を知って見学すれば、より一層興味深いものです。貴女も参加してみませんか?

参考資料
・ 日本の図書館統計と名簿2005 日本図書館協会 2006
・ いま、市民の図書館は何をすべきか 前川恒雄先生古稀記念論集刊行会編 出版ニュース社 2001
・ 図書館員として何ができるのか 西田博志著 教育史料出版会 1997

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