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人間生活学科

2020.04.25

本を編むということ|﨑川 修|人間関係学研究室

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人間生活学科

授業・研究室

入試情報

本は生き物である。本棚に眠っている書物も、埃を払って頁をめくれば、必ずそこに、本を編んだ「ひと」の息遣いが立ちのぼる。

そういう時間が好きで、やみくもに古書店などに通い詰めては、ろくに読みもしない本を買い漁ってきた。そして、いつかはそんな本を一冊でもいいから自分の手で編んでみたい。長年そう思っていた。
本は「書くもの」ではなくて「編むもの」。それは、自分ひとりの脳内では、絶対に完成しない作業である。誰かに頼み、助けられ、思いを交わしあいながら、ようやく本は誕生する。この三月末に、念願かなって著書を出版することができたのだが、この間、本を編むことの愉しさを、身をもって味わった。

「ひと」との出会いが本を作ってくれる。編集者との新しい出会いもあれば、懐かしい友との再会もあった。詳しくは本の「あとがき」に書いたので、読んでいただきたいのだけれど、高校生の頃に同人誌の表紙を描いてくれたK君に、どうしても頼みたくなって、装丁を依頼した。彼は誰もが知っているような商品やロゴマークをデザインしている人だ。

彼のオフィスで、何十年ぶりに長いこと話し込んだ。お互いの近況、昔の思い出、そしてこの本をどんな人に、どんな風に届けたいか。そこからいつの間にか湧いてきたイメージをやり取りしているうちに、ただの論文の束に息が吹き込まれていく。
意外と「触感」が大事だよね、という話になった。女子大の学生が、本を手に取ったときに、どんな感じを抱いてほしいか。透明感と神秘性。何かがそこに隠されている、奥行きを感じさせるデザイン。
紆余曲折はあったものの、狙い通りに、美しい本に仕上がった。プロの仕事だ。しかも繊細で緻密な感性は、高校生の頃から変わらない。さて、そうなると後は、中身のほうが釣り合っているかどうか。こちらは冷や汗ものだ。

一言だけ述べておくと、この本は「哲学書」である。哲学は、ひたすら難しい概念や論理に頭を抱えて「考える」ものだ、と思われるかもしれない。しかし私の意見は違う。哲学はもっと、五感で「感じる」ものである。少なくとも、哲学の入り口は「言葉にならない感覚」に出会うこと。そしてそれを、時間をかけて言葉にしていくのが「考える」作業なのだ。本書を手にとった人が、その色合いや手触りに何かを感じ、そこから日常とはちょっと違う時間が始まってくれたとしたら、しめたものだ。
「接触」のままならないご時世だからこそ、どうかぜひ、本書を「手」にとっていただければ嬉しい。

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