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日本語日本文学科

2006.08.01

日本最初の西欧文学翻訳作品のことばを味わってみませんか|清水  教子|日文エッセイ34

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日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第34回】2006年8月1日

日本最初の西欧文学翻訳作品のことばを味わってみませんか
著者紹介
清水 教子 (しみず のりこ)
日本語学担当

語彙・文体を中心に、平安時代の公卿日記(変体漢文)を研究しています。また、室町末期の口語体のキリシタン資料にも関心があります。
皆さんは、室町時代末期の「キリシタン資料」について何か聞いたことがおありですか。今日残っているものは点くらいです。宗教関係22点、語学関係8点、文学関係5点です。
イエズス会のスペイン人宣教師フランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸したのが、1549年(キリスト教の伝来)。以来ポルトガルを中心として、スペインやイタリアからキリスト教の宣教師たちが我が国にやってきました。彼らは布教に際して、当時の日本語を習得する必要がありました。そのときのテキストの一つが、『天草版伊曾保物語(エソポのハブラス)』(以下、『エソポ』と略称を用います)です。『エソポ』は、文学関係の「キリシタン資料」です。当時のポルトガル式ローマ字表記によって、1593(文禄)年に九州は熊本県の天草で出版されました。印刷機は、天正遣欧使節が持ち帰ったグーテンベルクの鉛活字によるものでした。なお、『エソポ』は当時の口頭語(話し言葉)で書かれています。

ところで、現代人は『イソップ寓話集』の書名のほうには慣れていますが、元はギリシア語で書かれていました。この『天草版』がどの原典から当時の日本語に翻訳されたものなのか、原典研究も
進んできていますが、今はそれには触れません。現存唯一のものは、ロンドンの大英博物館が所蔵しています。それは、『天草版平家物語』・『天草版伊曾保物語』・『天草版金句集』の3種が
合冊された形で残っています。409ページから506ページまでの98ページ余りに亘って、『天草版』が載っています。1999年に大塚光信・来田隆の両氏によって現代人に読みやすく打ち直されたもの(清文堂出版株式会社)が出されたので、それによって紹介します。
なお、現代人に読みやすくするために、ローマ字表記によらないで、前記の大塚・来田氏が漢字平仮名(又は片仮名)に直したもので原文を引用します。

『エソポ』の序によれば、「これ真(まこと)に日本の言葉稽古のために便(たより)となるのみならず、よき道を人に教へ語る便ともなるべきものなり。」とあります。当時の外国人(ポルトガル人の宣教師が中心)のための日本語テキストの一つでしたので、同じ意味の語・句・文に何種類かの違った言い方のあることも、学ぶべき項目の一つでした。ただし、人称代名詞などは待遇上の差はありますが......例えば、最初の何ページかを見ると、次のようなものが拾い出されます。

1 天下無双(ブサウ)であった ― この人に並ぶことはおりなかった
2 農人(ノウニン)・百姓・田夫(デンブ)
3 賞翫(シヤウクワン)す、取り食ふ、食ぶ(たぶ)、食す、くらふ
4 某(それがし)・私(わたくし)・余(み)・我(われ)
5 そち・われ・おのれ・汝(なんぢ)・そなた・御身(おんみ)、その方(ハウ)、貴辺(キヘン)・御辺(ゴヘン)
6 従人・所従
7 鋭な石、尖(とが)った石
8 二人(ニニン)・両人(リヤウニン)・二人(ふたり)
9 貴賎、高いも卑しいも
10  珍物(チンブツ)・雑餉(ザツシヤウ)、賞翫(シヤウクワン)の物、
11 女房・女房衆(シユ)・女中、妻
12 余(ヨ)(の)、別(の)

以上の具体例を語種(漢語・和語・外来語・混種語)の観点から簡単に説明しますと、次のようになります。

1は、漢語中心か和語中心か
2は、3語ともに漢語
3は、漢語サ変動詞2語と和語の動詞3語
4は、4語ともに和語の第1人称代名詞
5は、和語6語・混種語1語・漢語2語の第2人称代名詞
6は、2語ともに漢語
7は、2語ともに和語
8は、漢語2語と和語1語
9は、漢語1語と和語1語
10は、漢語2語と混種語1語
11は、漢語3語と和語1語
12は、漢語2語

以上の12例を語種の観点から整理し直すと、次の表のようになります。
語種    漢語   和語   混種語
用例数   18     19     4
%     43.9   46.3    9.8

話し言葉では、漢語よりも和語のほうが多いと推定せられますが、ほんの12例取り上げただけでは、両者に殆ど差が見られません。全部検討して、そのことを証明してみたいです。皆さんもしてみませんか。

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