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英語英文学科

2020.01.29

L・M・モンゴメリが愛した森とハリケーン・ドリアン|赤松佳子教授

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エッセイ

入試情報

ここ数年、世界中で気候の変化による災害が相次いでいる。2019年、日本では台風19号による首都圏周辺での被害が大きく報じられ、岡山では2018年7月の西日本豪雨の爪痕が2年を経てもまだ残っている。

2019年9月初旬、カナダ東部ではドリアン(Dorian) と名付けられたハリケーンが猛威を振るい、プリンス・エドワード島においては、島出身の女性作家L・M・モンゴメリが愛した森にも大きな被害をもたらした。彼女を母の死後に引き取って育てた、母方の祖父母マクニール(Macniell)家の地所の古い木々は無残にも押し倒され、数多の倒木のため観光客も訪問ができない時期があった。この春には新たに植樹が始まる予定だが、全面復興には何十年もかかるという。

被害に見舞われる10日ほど前の2019年8月28日、モンゴメリ作Anne of Green Gables[1908](『緑の切妻のアン』、邦題『赤毛のアン』)において、グリーン・ゲイブルズ〈緑の切妻〉のモデルとなったという家を含む国立公園に、モンゴメリ・ガーデンと新しいビジター・センターが完成し、高円宮妃殿下を迎えてオープン・セレモニーが行われた。このセレモニーで、猫を傍らに本を手にしているモンゴメリの銅像が、初めてお披露目されたのである。

モンゴメリの銅像

モンゴメリの銅像

実は2018年と2019年は、日本とカナダが外交関係を樹立して90周年を祝う期間だった。(2018年が日本の公使館をカナダに開設して90年目、2019年がカナダの公使館を日本に設立して90年目であった。)

この90周年を踏まえ、高円宮妃は記念の挨拶で『赤毛のアン』の主人公の言葉になぞらえて「カナダと日本は〈同類〉です」(“Canada and Japan are ‘kindred spirits’.”) と語った。その上で、多文化を理解するためにモンゴメリ作品の残した言葉は現代にも通用すると述べて、多くの共感を呼んだという(https://www.cbc.ca/news/canada/prince-edward-island/pei-princess-takamado-japan-celebrates-opening-of-montgomery-park-1.5262879)。

1952年に村岡花子によって『赤毛のアン』という邦題で翻訳が出版されて以来、日本で良く知られている本作品は、二つの国をつなぐ象徴的な役割を果たし続けているのである。高円宮妃はプリンス・エドワード島大学のモンゴメリ研究所(L. M. Montgomery Institute)の国際パトロンでもある。ビジター・センターの始動を祝う式典には妃殿下をはじめ、モンゴメリの孫ケイト・マクドナルド・バトラー(Kate Macdonald Butler)氏と村岡花子の孫である村岡美枝・恵理ご姉妹が出席し、モンゴメリ研究によってますます両国の関係が良好になることへの期待が示された。

ところが、この華やかで平和な式典から一転、ハリケーン・ドリアンが猛威を振るい、モンゴメリの愛した木々をなぎ倒していったのである。CBCの報道によれば、この地方の80パーセントが被害を受けたという。

マクニール家の地所の被害(Denise Bruce撮影)

マクニール家の地所の被害(Denise Bruce撮影)

9月13日、モンゴメリの祖父の家がもとになったB&Bで働くデニス・ブルース(Denise Bruce)は、ハリケーン・ドリアンが去った数日後マクニール家を訪れ、森の惨状を目の当たりにして驚いた。個人の力では到底、元の状態への復活は難しいと判断し、マクニール家の跡取りで、現在地所の森を管理しているデイヴィッド(David)を助けて森を整備する計画を立てたのだ。デニスは、世界中のモンゴメリ・ファンに呼びかけるために、ウェッブ上で支援金を募ることにした(“Save Montgomery's Hallowed Ground”: https://www.gofundme.com/f/save-montgomery039s-hallowed-ground?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=p_cp+share-sheet) 。
多くの研究者やモンゴメリ作品の愛読者が上述の趣旨に賛同し、その活動は続いている。

本学の2019年度生涯学習講座フェリーチェの「赤毛のアンの世界」において、10月6日の講座の講師を務めた梶原由佳氏は、講座後の懇話会の参加者に復興を願う寄せ書きを贈る提案をし、有志が日本語と英語でマクニール家を励まして森を整備してほしいという願いを書き込んだ。梶原氏によって日本語の文章は英訳され、寄せ書きは無事に先方に届けられている。モンゴメリを愛読する気持ちは、その作家を生んだ土地への関心につながり、新たな心の絆を生んだのである。

2019年度「赤毛のアンの世界」受講者による激励の色紙(左側)と
2008年の原書刊行百周年記念切手(梶原由佳撮影)

文学は読み継がれることにより、また別の物語をもたらす。ほんの短期間のうちに起こった、明と暗の出来事は、日加関係の交流につながっている。モンゴメリが愛した森の木々が美しく蘇り、ハリケーンの痕跡をとどめないほどになることを、私も願ってやまない。

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赤松佳子教授(教員紹介)

赤松教授のブログ
L・M・モンゴメリ研究所創設25周年とフェリーチェ講座「赤毛のアンの世界(2018.09.03)
カナダ建国150周年と『赤毛のアン』(2017.06.17)
L・M・モンゴメリゆかりの品を守れ―日本から募金活動に参加して―(2015.12.14)

生涯学習センターフェリーチェ講座
赤毛のアンの世界-作者モンゴメリとその作品をもっと知るⅢ-
※参考まで。募集は終わっています。

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