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日本語日本文学科

2009.09.01

教育・研究という職業|氏家 洋子|日文エッセイ71

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第71回】2009年9月1日
教育・研究という職業:不得手な授業を通して得たもの
著者紹介
氏家 洋子(うじいえ ようこ)
日本語学・日本語教員養成課程担当

ことばが私たちの精神活動や社会・文化とどう関係し合うかについて考えています。

ノートルダム清心女子大学に赴任して5年目。それまで岡山の地を踏んだことはなかった。

駅から正門までの道のりは子供時代の浦和の町で「街」と目した旧中仙道沿いを彷彿とさせ、穏やかな懐かしい気分になる。専任としての勤務は国内で数大学にわたるが、女子大は初めて。二、三の女子大に非常勤で行ったことはある。共学、女子大を問わず、授業内容に対する女子学生の反応から、自らとの類似性が強く意識されるため、学生に与えられるものが少ないことを危惧して避けて来た女子大だが、公募に応じて赴任した。

大学教員の本来の仕事である「教育・研究」の内、筆者は後者への従事を念頭にこの道を選んだ。人前で何かをすることは苦手で、前者、特に不得手な授業とは悪戦苦闘してきた。今や生活や意識の主要部分を占めるが、それも本来、不得手だということの証し。7、8人の仲間と研究会を続けた20代の頃、一言も喋らずに終わるのが常だった。発言したくても声の大きい人より大きな声が出せないためだ。やっとのことで「あの、私 --- 」と言い出すのは開始から5時間以上経ってのこと。それも「今日はこれで終わり」との閉会宣言に見事にかき消される。こんな経験ばかりしてきたことを学生に話すと眼差しに変化が。壇の上で喋る人と捉えていたのとは違う何かがあることに気づいての同情か、共感か。共感であるなら、過去の苦悩の経験も女子大生に勇気を与えるのに役立つのでは、ここに自分がいる意味があるのでは、と秘かに思う時もある。

非常勤生活を海外から戻っての六、七年間、1980年代半ばに当時珍しかった公募が出現するまで続けた。その中の一大学の教員室で、得たことがある。開放的な雰囲気が好きで専任職に就いた後も西日本に転居するまで21年間続けた所だ。専任も非常勤も一緒に昼食を取る中、研究内容への質問、授業のやり方や学生への対し方が日常的に話し合われた。自身、学生時代の「授業を受ける」経験から考えるところもあり、受けてよかったと思える授業にしたいとの思いは強かった。出席カードの余白に1行、授業の感想を書かせると心理学の教員が自らの試みを告げる。それなら新米教師の私も実行しているが本当に意味のあることか自信はないと思って聞いていると、続く言葉は「その積み重ねにより、年度末にはどの学生にも表現力が付く」。これは筆者の背中を押した。ここからやがて3行メモと名付ける方式を出発させることになった。無論、授業内で対話も試みる。クイズも出し、口頭でのやり取りに時間を割く。が、多数の人の前で発言はしなくても誰でも思うところはある。それを文章にならすることができる。今は専用のメモ用紙に毎授業後、「授業内容のどんな点にどのような理由で意義を感じたか」を書き、提出する方式に。これで学生の考えていること、関心、誤解等がわかり次の時間に活かせる。何よりの自己批判の材料だ。

本学に赴任したらここにい続けたいと誰もが思うと推定される理由の一に学生の学生らしさがある。前向きで真摯だ。それは教員にもやる気を起こさせる。そうした学生の比率が高いことで集団に独特の雰囲気が生まれる。今時の日本の大学ではまれなことではないか。筆者も火を付けられた。演習形式の授業で方法を進化させることになった。

持参したレポートのテーマが近い4~5名で小グループを作る。レポートを回覧し、質問・確認事項をメモ。それを元に討議。当初の自己の意見に起きた変化や確認点に注目しつつ、討議の結果を①グループ内の最終的な共通意見、②個人として主張したい点、として記入。①②をグループごとにプリントして参加者全員に配布。それを読んで全員がコメントを記入し各グループへ渡す。受け取ったグループはそれを内容別に分類しコメントシートに貼付、プリントして全員に配布する一方、コメントへの回答を考える。全員を前に、考えた内容を中心にグループで発表し、質疑。最後に、討議を終えての感想を全員が記し、提出。これを順次行う。授業外にも集まり、補足プリントも作るグループが出る。これは或る学生が漏らした「順番に一回発表して終わりというのでなく考える時間が多いほうがいい」という言葉に触発され、4年かけて徐々に開発したもの。コミュニケーション力をつけること、自己の言が他者にどう理解されるかを知ること、他者と話し合い確認し合う中で意見に変化が起き、高次に至る過程を経験すること、という目的達成の途上にある。

学生という他者との出会い・対話により自らも豊かになる経験。「教える」側も教えられる。教える者、教えられる者の二項対立は消え去る。研究活動にも通じるところが。有意義な著書と出会い、対話し、高められる意識。教育と研究は通底していると言えるだろう。

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