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日本語日本文学科

2010.05.06

坪田譲治とあまんきみこ、そして宮沢賢治|山根 知子|日文エッ セイ79

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第79回】2010年5月6日

坪田譲治とあまんきみこ、そして宮沢賢治
著者紹介
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。

恩師について語るあまんきみこさん。傍らの本は坪田譲治編集『風の又三郎』(2010年3月13日、本学カリタスホールにて)

恩師について語るあまんきみこさん。傍らの本は坪田譲治編集『風の又三郎』(2010年3月13日、本学カリタスホールにて)

前回のリレーエッセイ第68回「坪田譲治とあまんきみこ」(2009年6月1日)では、岡山市出身の作家坪田譲治生誕120年を迎えるにあたって、2010年3月13日に本学で記念行事「坪田譲治―あまんきみこが語る恩師の姿」と「坪田譲治コレクション」(附属図書館)の展示「坪田譲治の原風景」を行うことについて予告しました。この約1年をかけて、その行事のメインとなるあまんきみこさんの対談形式による講演の準備、また「映像による坪田譲治紹介」や学生による「白いぼうし」「魔法」の朗読劇、そして展示等の準備を進めてきました。そして先日、その会を盛会にて終えることができました。

そのあまんきみこさんとの対談で、童話の雰囲気そのままのようなあまんさんから伺うことのできた貴重なお話から、最も印象深かったことをここに書かせていただこうと思います。

事前に私が読んでいたあまんさんのエッセイ「一冊の童話集」に、小学4年生のとき宮沢賢治の童話集『風の又三郎』(羽田書店 昭和14年)を買ってもらい、大好きで繰り返し読んでいたという記憶について書いておられました。私はその賢治の童話集が坪田譲治の編集によるものであり、譲治が後書きとして「この本を読まれた方々に」という長文の文章を書いていることに注目していましたので、少女期のあまんさんがこの本を読んで影響を受けたという事実にたいへん驚きました。つまり、あまんさんはエッセイでは書かれていませんが、譲治と出会う以前に、譲治の解説によって賢治文学および童話というものへの理解を深めていたと想像していたのです。そこで対談中に本の印象を伺うと、あまんさんはその本に収録された賢治の作品「蟻ときのこ」を読んで、蟻がきのこを見あげるという日常では見えない視点の変化を楽しんでいたという話をされました。また、続けて「坪田先生が後書きを書かれていたことは覚えていますが、内容は覚えていませんし、子供だったので後書きなど読んでいなかったのではないかと思います」とお話しくださったことは意外でした。というのも、譲治の後書きには、この「蟻ときのこ」や「やまなし」について、「あなた方が見たいと思つたつて、見ることの出来ない世界を、まるで眼の前に見るやうに書いてあるといふことが、面白いことの一つの理由です」と書いてあるからです。その記述をお伝えすると、あまんさんはたいへんびっくりされ、しばし感嘆の声をあげておられました。

さらに、この後書きから、ファンタジーやメルヘンとも呼ばれるあまんきみこ作品を理解するための大切な話を交わすことができました。まず、あまんさん自身がエッセイ「告白」にも書かれた内容、すなわち人から「あなたの作品では、クマが車にのったり、キツネが人間になったりするでしょう?そんなうそ(うそに圏点)をなぜ書くのですか。」と問われたとき、「あ、あれは、みな、ほんとです。私には、ほ、ほんとうです。」と答えたという経験があったそうで、いつも「私にとって、ほんとう」という場で作品を書いているというあまんさんの童話への思いを確認しました。そのことも、先の譲治が賢治文学を評しての童話の捉え方について書いた後書きの文章に似ていると思われ、対談中、次のような譲治の記述があることに触れました。「『童話の中では、草や木がものを言つたり、動物などが人間のやうな生活をしてゐる。あれはホンタウですか。草や木がホンタウにものを言ひますか。』それは言ひません。言ひませんけれども、童話がホンタウであるといふことは、別のところにあるのです。」このように述べた後、譲治は童話の「ホンタウ」とは、「人生の真実」が教えられている点にあることを強調し、「どうか童話をお読みになつたら、そこから人生のホンタウを読みとられて、人生の貴さといふものについて知つて下さい」と子供読者に呼びかけています。

子供読者であったあまんさんは、この言葉を読んでいなかったということですが(あるいは読んでいても忘れていて無意識のうちに心にしみこんでいたかもしれませんが)、この童話と「人生の真実」への考え方はあまん作品のなかでも息づいていることは間違いないでしょう。

また、あまんさんによると、譲治先生には譲治主宰の童話雑誌『びわの実学校』同人として作家へと育ててもらったが、その創作指導は具体的な問題に触れることはなく、「作品には人生をお書きなさい」との言葉をいつも繰り返し話していただけだったということでした。このことより、リアリズム作家としての譲治のもとで『びわの実学校』の同人として生まれた多くの童話作家が、リアリズム、ファンタジーといったジャンルにかかわらず、様々なタイプの作家が次々と生み出されていることからも、どんなジャンルでも作品に「人生の真実」があらわれることを望んでいた譲治の姿勢を強く認識させられる思いでした。

画像は、恩師について語るあまんきみこさん。
傍らの本は坪田譲治編集『風の又三郎』(2010年3月13日、本学カリタスホールにて)

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