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日本語日本文学科

2010.09.01

そうじゃろ?|尾崎 喜光|日文エッセイ83

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日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第83回】2010年9月1日

そうじゃろ?
著者紹介
尾崎 喜光(おざき よしみつ)
日本語学担当
現代日本語の話し言葉の多様性に関する社会言語学的研究。日本語の男女差、年齢差(加齢変化)、地域差(方言)、方言と共通語の使い分け、敬語行動、現在進行中の言語変化、韓国語との対照言語行動研究など。研究テーマも多様。

言葉で何を伝えているか?
私たちは他人(ひと)の話を聞くとき、ふつうは「何を言っているか」に注意を向け、「どう言っているか」はコミュニケーションの背景として退き、そこに注意を向けることはあまりありません。では、「どう言っているか」は何の情報も伝えていないかというと、そうではありません。私たちはそこからもある種の情報を得ています。

たとえば料理教室の場面を考えてみましょう。先生からスパゲッティを硬めにゆでるよう指示されたとします。そろそろゆであがりそうなので、「硬さはどうでしょうか?」と言いながら1本試食してもらいました。ここで先生が「OK!」の返事をするとします。

こんなときどんな日本語がありうるかと考えると、少なくとも次の言い方がありそうです。「これでいいですよ」「これでいいよ」「これでいいぞ」「これでいいわよ」「これでええで」「これでいいっすよ」「これでけっこうでございます」。

これらは全て「OK!」という内容を伝えています。「何を言っているか」は皆同じです。では、相手に伝わる情報はどれも同じかというと、そうではありません。

どのような情報が異なっているかと言うと、話し手自身に関する情報や、話し手が相手との関係やコミュニケーションの場をどのように認識しているかに関する情報です。「いいですよ」と言えば相手と距離を置きつつ丁寧に接していることを伝えています。「いいわよ」と言えば自分は女性であるということを伝えています。「ええで」と言えば自分は関西人だということを伝えています。こうした情報が異なるわけです。

私たちは言葉を使ってコミュニケーションするとき、無意識のうちにこうした情報も相手に伝えているのです。これは言葉のカタチが伝える情報です。ということは、「どう言うか」もコミュニケーションにおいて重要な情報を伝えていることになるわけです。

話し手のイメージのくい違い
ある表現が含意する話し手のイメージに関する情報が日本人全員に共有されていればコミュニケーションに支障はありません。しかし、地域によりそれが異なる表現もあります。その一つが、本学の学生もごく日常的に使っている、相手に確認を求める「そうじゃろ?」です。

ポイントは「じゃろ?」に含まれる断定の助動詞「じゃ」です。図のように「じゃ」は岡山ほか西日本を中心に広く使われています(関西の「や」は「じゃ」から変化した形です)。これに対し東日本では「だ」が使われています。つまり、岡山の「そうじゃろ?」は、東日本では「そうだろ?」が対応するわけです。

岡山の「そうじゃろ?」は男女共用の表現ですが、東日本の特に首都圏などの「そうだろ?」は男言葉という傾向が著しく見られます(女性はおもに「そうでしょ?」を使います)。話し手に関するそのようなイメージを持つ東日本出身の私にとっては、女子学生が使う「そうじゃろ?」は「男言葉」というイメージで聞こえてしまいます。

また、東日本では、「じゃ」は「昔のことば」「老人語」というイメージも広く共有されていると思います。典型的には昔話の冒頭の「昔々のことじゃった」という古風な語り口をイメージする人が多いと思います。そのため私には、女子学生が使う「そうじゃろ?」は「老人語」というイメージでも聞こえてしまいます。

岡山の人にはごく普通の言葉なのでしょうが、転入者には特別なイメージで聞こえてしまうことがあるという「ギャップ」が面白く、最近はこの種の研究を進めています。私自身が使う言葉も、岡山の人にどう受け止められているか興味のあるところです。特に「そうだよね」などは感じるところが多いのではないでしょうか。

画像は、「いい天気だ」の「だ」の部分をどう言うかについての、方言地図(国立国語研究所編『日本言語地図第1集』(1966年)より作図)。

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