日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第95回】2011年9月1日
でーこんてーてー
著者紹介
尾崎 喜光(おざき よしみつ)
日本語学担当
現代日本語の話し言葉の多様性に関する社会言語学的研究。日本語の男女差、年齢差(加齢変化)、地域差(方言)、方言と共通語の使い分け、敬語行動、現在進行中の言語変化、韓国語との対照言語行動研究など。研究テーマも多様。
「炊く」も気になるところですが、先ほどのフレーズで示したい特徴はむしろ、「大根」をデーコン、「炊い」をテー、「ておいて」をテーテと発音する点でしょう。音声記号で示すと、[daikoN]を[de:koN]、[tai]を[te:]、[teoite]を[te:te]と発音する特徴です。最大のポイントは、連母音の[ai][(e)oi]を長音の[e:]とする点にあります。「連母音の融合」と呼ばれる現象です。
連母音の融合は、近畿・北陸・四国を除く全国各地に見られますが、岡山では使用者の範囲が広くまた使用頻度も比較的高いように感じられます。本学の女子学生もごく普通に使っているのを聞くにつけ、かつて住んでいた首都圏との違いを感じます。
もっとも、同じくai連母音であっても、「痛い」をイテー、「危ない」をアブネーとする発音を学生たちから聞くことはあっても、「大根」をデーコン、「課題」をカデーとする発音はめったに聞きません。いったいどうなっているのでしょうか?
指導教員としては、アンケート調査班には、本学の学生やその両親を対象に調査するくらいのことを期待していたのですが、それ以上の頑張りを見せ、出身校等にも依頼し、岡山市を中心とする県内から広く回答を集めてくれました。総計で575人から回答が得られました。男女別の内訳は男性305人、女性268人、年齢層別の内訳は小学生181人、中学生156人、高校生153人、20代・30代27人、40代・50代51人です。
(合計がそれぞれ575人にならないのは性別や年齢が無回答のものがあったためです)
調査語も100語を超えましたが、そのうちの一部について、融合形を使うと回答した人の比率を、全体および男女別に示したのが下のグラフです。
このグラフからいろいろなことが分かります。
まず目にとまるのは、左側の8語とそれ以外との数値の大きな開きです。左側の8語をよく見ると、これらは全て漢語を中心とする名詞です。これに対し残りは全て形容詞です。つまり、現在の岡山県では、形容詞(の語末)を融合形で発音する人の割合は少なくない一方で、名詞を融合形で発音する人の割合はきわめて少ないことが分かります。「大根」をデーコンとする発音は、岡山でも「今は昔」となりつつあるようです。
この他、形容詞に目をやると、男性の数値は女性よりも一貫して高くなっていることも確認されます。つまり、融合形の使用は女性よりも男性に傾くことがわかります。
また、同じく形容詞であっても、語により数値がずいぶん異なります。数値が高い順(あるいは低い順)に語を並べ替えるなどして傾向性を見出すことも可能です。
・日本語日本文学科
・日本語日本文学科(ブログ)