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日本語日本文学科

2013.07.01

「話すこと・聞くこと」の再評価―学生による音声表現番組制作を 通して―|大滝 一登|日文エッセイ117

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第117回】2013年7月1日
【著者紹介】
大滝 一登(おおたき かずのり)
国語科教育担当

国語科カリキュラムや学習評価を中心に、国語科教育について理論と実践を通して研究しています。


「話すこと・聞くこと」の再評価―学生による音声表現番組制作を通して―
 「国語の授業」と聞いて、皆さんがまずイメージされるのは一体どんな場面だろうか。小学校から高校まで12年間の授業のなかには実に多様な活動や場面が存在したであろう。しかし多くの方に共通するイメージは、概ね教科書の文章を読んでいる授業ではないだろうか。だが、学習指導要領に規定されているのは「読むこと」の指導だけではない。文章作成など「書くこと」の指導、そしてスピーチや話し合いなど「話すこと・聞くこと」の指導も授業で行わなければならないことになっている。

 ところで旧学習指導要領においては、教科目標に新たに「伝え合う力」が盛り込まれたのを契機として「話すこと・聞くこと」の指導が大きく注目された。私は当時教育行政に携わっていたが、義務教育を中心に音声言語の指導が各校の研究主題となり、スピーチや発表、ディスカッションなどの研究授業が頻繁に行われたのは記憶に新しい。

 ところがいわゆるPISAショック(※)以降、各校の研究主題のキーワードはしだいに「読解力」へと変化し、今ではすっかり「言語活動」にとって代わられている。教育がたえず時流の影響を敏感に受けざるを得ないのは言うまでもないが、「話すこと・聞くこと」の指導が決してその役目を終えていないことを私たちは忘れてはなるまい。むしろ「言語活動」が注目される今だからこそ、日々のコミュニケーションの主役である音声言語能力の育成を重視する必要があるといえないだろうか。 

 ところで本学では、学科科目・教職必修科目「日本語表現法Ⅱ」において一昨年度から学生たちがグループ単位で音声表現番組の制作を行っている。アナウンサーを目指すためではなく、あくまでも一社会人としての音声言語能力の向上が目的の科目である。番組が出来上がるまでには以下の過程に沿ったさまざまな言語活動がある。

①企画・取材準備......番組内容に関するディスカッション、番組計画表の作成、電話・メール等による取材対象と の連絡調整、関係資料の読解
②取材・整理......インタビュー、座談会、録音内容の文字化と整理
③構成・シナリオ作成......シナリオ作成に関するディスカッション、シナリオ化
④練習・リハーサル......事前発表、指導者からの助言聴取、改善へのディスカッション
⑤発表会における発表......DJを中心とした会話、朗読、意見発表
⑥修正・練習......参加リスナーからの評価を受けた改善に関するディスカッション、シナリオの修正、録音に向けた練習
⑦録音における発表......DJを中心とした会話、朗読、意見発表

 これらは大きく、話題設定→情報収集→構成・原稿作成→話す・聞く・話し合い活動の発表→修正→録音という流れを踏んでいる。個々のステップにおいては、読む活動(声の大きさ、速度や間、表情などを考えるための解釈・想像)や、書く活動(企画・取材のためのメモ、取材内容の文字化、シナリオ作成)も重要だが、これらは当然来るべき発表・録音のためになされる活動である。したがって、取り組みの中心はやはり話す・聞く・話し合う活動(企画・取材等における話し合い、インタビュー、練習・本番における会話・朗読・意見発表)にほかならない。新聞記者やアナウンサーの指導を受けながら学生たちは、内容もさることながら、リスナーを想定し「相手に届ける」ために必要な工夫を音声表現番組に効果的に盛り込んでいくことの重要性にしだいに気づいていく。そしてそのためには、グループ内のメンバー同士の円滑なコミュニケーションが前提であることにも。

 日頃余りにも身近でありながら発した途端に消えていく音声言語だけに、自らの能力を客観的な立場で自覚しにくい難点もある。またベテランの教師であっても「大学で学んで来なかった」ことを言い訳にして指導に二の足を踏む場合もあるかもしれない。しかし学生たちの未熟でありながらも成長
していく姿を目の当たりにすると、学校教育における「話すこと・聞くこと」の指導の使命を再認識せずにはいられない。「読む能力を育てれば話せるようになる」生徒も確かにいるだろう。だがそのことは、コミュニケーション能力の欠如が叫ばれる世代に対して、他者とつながるためのスキルや経験を培うための指導をなおざりにする方便にはならないだろう。

 出来上がった番組には素人ならではの稚拙な部分も多々あるが、ぜひともその成果を一人のリスナーとして本学のホームページ(http://www.ndsu.ac.jp/about/gp/gp_ccpm_report.php)で確かめていただきたい。つい1年前には人前で話すのが不安で仕方なかった学生たちの、コミュニケーションをめぐる実践を通した一里塚がそこに立っているはずである。

※注:PISAとは、経済協力開発機構(OECD)による国際的な生徒の学習到達度調査のこと。OECD加盟
国を含む多くの国と地域が参加している。2003年調査の「読解力」項目における日本の結果が、前回の8位から14位へと大きく落ち込み、それを契機に学力低下問題への関心が大きく高まった。
※画像(上下とも)は、2月に行われた学生による発表会と録音の様子。

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