• Youtube
  • TwitterTwitter
  • FacebookFacebook
  • LINELINE
  • InstagramInstagram
  • アクセス
  • 資料請求
  • お問合せ
  • 受験生サイト
  • ENGLISH
  • 検索検索

日本語日本文学科

2015.06.01

LLブックという試みから考えること|川﨑 千加|日文エッセイ140

Twitter

Facebook

日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第140回】 2015年6月1日
【著者紹介】
川﨑 千加(かわさき ちか)
図書館・情報学 司書課程担当

図書館を使った情報リテラシー教育を探求しています。
 
LLブックという試みから考えること
 この4月1日から本学に着任し、司書課程主任となりました。2007年3月まで大学図書館の司書をしていました。司書になったのはたまたま、でしたが、図書館の仕事をする中で「誰かの役に立つ仕事だ」と思い、それがやりがいとなっていきました。ただ、その当時の「誰か」とは図書館に来る方、であり、図書館を自ら使う方達だったと思います。しかし本来、図書館は図書館に来ない、来られない方達も対象にサービスを考える必要があります。それを明確に気づかせてくれたのが"LLブック"との出会いです。
 "LLブック"という言葉を聞いたことがない方はまだまだ多いと思います。LLはスウェーデン語のLattlast(やさしく読める)の略語です。LLブックは主に知的障害や学習障害、読書障害(ディスレクシア)などで読むことに困難がある人を対象に作られている読みやすく、わかりやすい工夫がされた本のことです。スウェーデンでは異なる母語を持つ移住者や発話に困難がある自閉症や失語症の人、子どもや高齢者などのコミュニケーションを促進するものとしても広く受け入れられ、国費でLLブックが製作されています。

 しかし、日本では子どもを対象にした絵本や生活上のルール、暮らしに関する情報をわかりやすく表現したものはあるものの、楽しみのためのLLブックとして制作された本は翻訳本を除いてほとんどありません。そのため、図書館でもLLブックの存在は今まであまり知られておらず、所蔵している図書館も少ないのが現状です。また、LL=やさしく読めるということに対する支援もこれまであまり意識されてきませんでした。図書館は基本的に活字の本を読む人たちを対象にしてきたと思います。しかし、活字を読むことに障害がある方達も読書をする楽しみを得たいと思っています。
 2009年に開かれた日本図書館研究会のセミナーで、日本でLLブックを広めたいという藤澤和子先生(現 大和大学教授)と出会い、友人であった大阪芸術大学図書館課長の多賀谷津也子さんに声をかけて、2010年から日本初の写真だけのLLブックの制作を始めました。子ども向けではなく成人の障害のある方や一般の人が見ても楽しめるLLブックを創ろうということを目指しました。伊藤忠財団の助成金を受けて最初に作ったのが『LL写真ブック はつ恋』でした。
 この本を元に藤澤先生が知的障害のある人たちが実際どう感じるか、どこがわかり、どこがわかりにくいかを調査されました。その結果を踏まえ、やはり伊藤忠財団の助成金で制作したのが『わたしのかぞく』というLL写真ブックでした。これらは、いろいろなところで紹介いただき、"LLブック"という言葉もずいぶん定着してきました。その証拠に、昨年度の大阪府の司書採用試験では「LLブックとは何か」を説明する問題が出されたほどです。また、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が平成28年4月から施行されるため、図書館でも今まで積極的な支援をしてこなかった知的障害や学習障害のある方への配慮を検討する動きも出てきています。そうした流れもあり、今年5月にはLLブック『わたしのかぞく:なにが起こるかな?』を樹村房から出版することになりました。
 LL写真ブックは写真による4コマ漫画と思って頂くと良いですが、セリフも何もありません。文字がなく、写真だけでおもしろさを伝えることは難しいことです。でも、見る人が自由に言葉を想像し、文字に影響されることなく楽しめる可能性を持っています。また、これらはそれぞれ4-5コマの写真だけのショートコントを7-8編収めています。コントのタイトルなどで、カタカナや漢字が出てくるときは必ず平仮名のルビを付けています。この平仮名のルビを付けることも「やさしく読める」一つの方法です。
 LLブックを作る試みは、できるだけ多くの人に読む楽しさを届けることにつながります。そして、やさしく読める、わかりやすいを提供することは、障害のない人も含めすべての人に"やさしい"ことだと考えています。「わかりやすさ」は人によって異なり、実に多様です。「わかりやすい」ことを追求する中で、図書館は今まで対象としてこなかった人たちをも取り込む時期を迎えていると思います。 
  以上
 なお、LL写真ブック「はつ恋」は以下のURLから無料でダウンロードできます。
http://ir-lib.wilmina.ac.jp/dspace/handle/10775/2421
画像の無断転載を禁じます。
 

一覧にもどる