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日本語日本文学科

2016.05.01

文学創作を志す人々へ-プロの作家になった卒業生・杉本章子さんを偲んで-|山根 知子|日文エッセイ151

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日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第151回】 2016年5月1日
【著者紹介】
山根知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。
 
文学創作を志す人々へ 
-プロの作家になった卒業生・杉本章子さんを偲んで-

 
直木賞受賞作家・杉本章子さんと芥川賞作家・村田喜代子さん
 日本語日本文学科の授業「文学創作論」では、プロの作家を特別講義講師としてお招きし、受講した学生が自分の創作作品を文集に掲載する過程で、一人ひとりの作品に対するご指導をいただいています。
 2015年度には、芥川賞受賞作家である村田喜代子先生にご指導をいただきました。村田先生は、本学日本語日本文学科(当時の名称は国文学科)出身の直木賞受賞作家である杉本章子さんの同郷の親友です。このたびの来校にあたって、村田先生は杉本さんのことを、2016年2月発行の『オール讀物』掲載の追悼文「松葉杖と命の洗濯」で次のように記しています。
  彼女はノートルダム清心女子大学の出身である。大学の校舎が懐かしい、と言うので、(中略)ちょうど同大から出張講義の依頼を受けていたので出かけた。
 当時このような思いを聞いてお越し下さった村田先生から、杉本さんが癌の末期で容態の思わしくない状況を伺っていましたので、校舎や校内の映った絵葉書や大学案内等を用意し、村田先生に杉本さんへ届けていただきました。こうして村田先生のご配慮により、杉本さんをその創作活動の原点ともなった母校と再びつなぎ、さらに文学創作を志す後輩たちの存在ともつないでいただけましたことは、感謝の念に堪えません。村田先生の2度目のご来校後1ヵ月も経たない2015年12月4日に、杉本さんが天に召されましたことは大変悲しく残念なことでした。今はただ心より永遠の平安をお祈りいたします。

杉本章子さんの学生時代から小説家になるまで
 小説家である杉本さんは、学生時代、本学の演習授業で幕末期の儒学者・戯作者である寺門静軒についての研究に手を染め、引き続き卒業論文で寺門静軒研究を行い、江戸文学研究を手がけています。その後、本学には当時はまだ大学院がなかったことから、金城学院大学大学院へと進学して研究を続け、修士課程を修了します。その後卒論と修論の成果から寺門静軒が主人公となる小説『男の軌跡』が生み出され、1980年には第4回歴史文学賞佳作に入選して、作家としてのデビューを果たします。さらに1989年には『東京新大橋雨中図』で第100回直木賞を受賞し、江戸時代を中心とする時代小説作家として大成されました。
 杉本さんは学生時代から小説家になるまでの経緯について、直木賞受賞後に『オール読物』(1989年3月)に掲載された「受賞者が語る直木賞受賞までの軌跡」というコーナーの自伝エッセイ「曲がり角の男」で、本学をめぐる思いを語っています。
 そのなかで、福岡県出身の杉本さんが、はるばる岡山の本学に進学した理由については、1歳3ヵ月で小児麻痺に罹ったことで両脚を松葉杖で支えて移動する生活となったため、高等学校までの12年間、通学に親の手を煩わせ続けたことから、大学では自立したいという思いが芽生えたこと、また高等学校がミッション系だったことから、本学を選んだと記しています。
 大学生活については、本学に当時あった寮に入り、学科を越えた友人とともに楽しく充実した寮生活を送っている様子が活き活きと描かれています。
 卒論の指導教授藤原暹先生のゼミでは、杉本さんは「ゼミの教室は、図書館の三階にある。エレベーターがないので階段を使うほかなく、これが足のわるい私にはこたえるのだ」という生活のなかで、卒論に心を入れ込んでいきます。卒論提出後の口頭試問では、杉本さんは藤原先生とのやりとりを次のように記しています。
  「読ませてもらった」
  「......はい」
  「まあ、よくできていると思う。ただし、小説としては、ね」
  (中略)
   それから、三年後。
   私はひょんなことから小説を書いてみようと思い立ち、この面接のときのF教授の言葉を支えにして、寺門静軒を小説に書いた。
 このように、演習授業で寺門静軒を学んだことが卒業論文での研究へとつながり、その卒論を通して分け入った江戸文学研究が小説を書くことにつながったことから、杉本さんにとって本学での学びは「いま歩んでいる道の出発点だった」と述べています。

本学附属図書館に寄贈された杉本さんの本
 現在、本学附属図書館にある杉本さんの本のなかには、著者からの寄贈として収められている小説に、『写楽まぼろし』『名主の裔』『妖花』『間蝶』があり、杉本さんの本学への思いが偲ばれます。一方、杉本さんの在籍当時の学長であった渡辺和子理事長からの寄贈として、『東京新大橋雨中図』『大奥二人道成寺』『東京影同心』『精姫様一条』があり、渡辺理事長が杉本さんから贈呈された本を図書館に寄贈したという経緯から、杉本さんが渡辺理事長に学生時代以来の実りを伝えようとしたぬくもりが感じられます。これらの本の巻末に列挙された参考文献からは、杉本さんがひと作品ごとに、授業から卒論・修論まで手がけた研究と同様の緻密な調査を経て、時代や主人公に心を込め、思いを膨らませ小説に仕上げていく過程が想像されます。
 このような杉本さんの人生の軌跡が、現在、あとに続こうとしている授業「文学創作論」の受講者の志ともつながりますようにと願いつつ、杉本さんの生き方や執筆姿勢への認識を新たにして、作品世界を学生たちとともに味わいたいと思っています。

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