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日本語日本文学科

2016.07.01

ちょっと手伝ってもらっていい?|尾崎 喜光|日文エッセイ153

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日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
 
【第153回】 2016年7月1日
【著者紹介】
尾崎 喜光(おざき よしみつ)
日本語学担当

現代日本語の話し言葉の多様性に関する社会言語学的研究。日本語の男女差、年齢差(加齢変化)、地域差(方言)、方言と共通語の使い分け、敬語行動、現在進行中の言語変化、韓国語との対照言語行動研究など。研究テーマも多様。
 
 ちょっと手伝ってもらっていい?

誰かに頼むときの言い方
 気になる日本語表現があれこれあります。どんなとき気になるかと改めて考えてみると、これまで使われていなかった新しい言い方を、自分よりも若い人たちが使っているときなどが多いようです。
 そうした気になる表現のひとつに、誰かに手伝ってくれるよう頼むときに使われる「ちょっと手伝ってもらっていい?」のような言い方があります。
 若い読者の中には、そもそもこの表現のどこが問題なのかわからないという方も少なくないと思います。
じつは「手伝ってもらっていい?」の「もらっていい?」の部分が、私にはとても気になるのです。
 では私だったらどう言うかというと、語形が最も近い表現であれば「ちょっと手伝ってもらえる?」です。文の末尾が「もらっていい?」ではなく「もらえる?」となるのです。
 この文末の「もらえる?」という表現をよく考えてみると、相手が手伝ってくれることの可能性を尋ねています。可能性を尋ねることで相手に対し婉曲に頼んでいるわけですから、かなり気を遣った言い方です。
こんな適切な言い方があるにもかかわらず、「もらえる?」と言わずに「もらっていい?」と言っているわけです。私の耳には、何だかもって回った言い方のように聞こえる点にも違和感を覚えます。

いつ頃から使われ始めたのか?
 では、このような表現はいつ頃から使われ始めたのでしょうか? それを推測できる言語調査データがいくつかあります。このうち、国立国語研究所が愛知県の岡崎市民を対象に20~40年間隔で多人数(300~400人)を3回調査したデータを分析してみました。
 調査の回答者には、新聞代の集金人が自宅に来たという状況で、新聞代はすでに払ってあるのでもう一度調べるよう頼む場面を想定してもらい、そのとき何と言うかを、ふだんに近い言い方で声に出して言ってもらいました。たとえば「もう一度調べてもらえますか?」などの言い方が期待されます。
 この回答の中に、「もう一度調べてもらっていいですか?」のような「もらっていい」を含む表現を使う人がどれくらいいるかについて、それと対立する「もう一度調べてもらえますか?」のような「もらえる」を含む表現を使う人と対比する形で分析しました。分析の細かい手続きの説明は省略しますが、「もらえる」系と「もらっていい」系の使用者数は次の表のとおりでした。なお、回答者全体(各回300~400人)に比べ人数がかなり少ないのは、これら以外のさまざまな表現を使った人が多数いるためです。この2つの表現のうちのいずれかを使った人という限定で、その内部分布を分析しました。

 第1次調査と第2次調査では「もらっていい」系を使った人は全くおらず、全員「もらえる」系でした。ところが第3次調査になると、「もらっていい」系を使った人も一定数出てきます。該当者の合計人数は68人ですが、このうちの10人(14.7%)が使っていました。比率こそ小さいものの、これまでは使う人が全くいなかった状況と比べると大きな変化と言えます。第2次調査の1972年から第3次調査の2008年の間に使われ始めた表現と言えそうです。

現在の岡山市での使用は?
 では、現在の岡山市での「もらっていい」系の使用はどうでしょうか?
 2013年10月に、民間の調査会社に委託し、無作為に選ばれた20歳~79歳の男女81人を対象にアンケートをしてみました。回答者の約7割は岡山県出身者です。回答者には、友達に少し手伝ってほしいことがあるときにどんな言い方で頼むかを尋ねました。実際にはいろいろな言い方があるでしょうが、「もらっていい」系およびそれと関連のある計5つの表現を提示し、自分で使うことがある表現を全て選んでもらいました。
 このうち「(ちょっと)手伝ってもらっていい?」を使うことがあると回答した人は40.7%でした。現在では比較的多くの人が、友達に対しこの表現を使っていることがわかります。
 次のグラフは、回答者を男女別・年齢層別に分析したものです。男性よりは女性で、上の世代よりは下の世代でこの表現を使う人の割合が高いことがわかります。この年齢差は、岡山でも現在普及しつつあることを示していると考えられます。

なぜ「もらっていい?」は好まれるのか?
 では、なぜ「手伝ってもらっていい?」のような表現が好まれるのでしょうか?
 従来の「手伝ってもらえる?」は、確かに言葉の形から考えると、相手に対しかなり気を遣った表現です。しかし、日常会話での実際の働きという点から考えると、結構一方的できつく響きうる頼み方であることもまた確かです。つまり、本来持っていた対人配慮の機能が擦り切れ始め、それをまさに相手の意向を問う形に整え直し、そこにこれまでの対人配慮の機能を負わせたのが「手伝ってもらっていい?」のような表現ではないかと考えられます。今後ますます普及し定着する可能性がおおいにありそうです。

【参考文献】
尾崎喜光(2015)「「~てもらっていい?」の普及に関する研究」『清心語文』17

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