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英語英文学科

2015.05.27

敗れし者のその後、仏日比較│梶谷二郎教授

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英語英文学科

エッセイ

敗者(被征服者)は果たして真の敗者か、歴史の中での敗者の変容、フランス人の場合と日本人の場合

フランスにおける被征服者(英雄)としてまず思い浮かぶのは、カエサル『ガリア戦記』のヴェルサンジェトリクスである。フランスがかつてガリアと呼ばれていた頃、カエサルが支配下に入れ、その支配の記録を『ガリア戦記』という形で残した。その『戦記』の中では、被征服民であるガリア人は、野蛮な民族として描かれる。部族間対立に明け暮れるガリアは、ローマの敵ではない。しかし、部族を統一し、ガリアをまとめローマに立ち向かった英雄が出る。ヴェルサンジェトリクスである。彼が率いるガリア軍は、一度だけローマに勝利する。それがジェルゴヴィーの戦いである。フランス中部の都市クレルモン・フェランの郊外にある丘がその戦闘の舞台となった。この戦いの戦況について、カエサルはこのように書いている。(カエサル「ガリア戦記」国原吉之助訳、1994年、講談社、p.282)
ヴェルサンジェトリクスの勝利も一時的でしかなく、その後に彼はカエサルの軍門に下り、ローマで処刑される。

ジェルゴヴィーの戦いから2000年が経つが、現在のフランスでは、ヴェルサンジェトリクスはどのような扱いを受けているのか。クレルモン・フェランの通りの名前として人々はジェルゴヴィー大通りという呼称を与え、中心広場には彼の騎馬像が建てられ、ガリアの英雄が颯爽と全軍を指揮する雄姿を彷彿とさせる。そこには敗者(被征服者)のイメージは微塵もない。

 ローマの支配に屈しないガリア人の誇りは、劇画の主人公にも見られる。劇画好きの人で、ガリア人のアステリックスとオベリックスについて知らない人はいないであろう。劇画の時代設定は、まさにカエサルの『ガリア戦記』の時代で、アステリックスは知恵によってまたオベリックスは巨石によってローマ軍を散々な目に合わせる。これらに見られるフランス人の精神は、ゴーロワ精神と呼ばれ、いささかみだらであるが、陽気なフランス人の気風をよく表す表現である。

その後、ガリアはラテン化する。現在のフランス語はラテン語を源にしている。南仏の水道橋やアルルの円形劇場は現存するローマ帝国時代の建築物である。またラテン(イタリア)文化へのフランスのあこがれは、16世紀のルネッサンスの時代まで続いている。フランソワ1世のイタリア遠征はその一つの表れであり、ルーブル美術館所蔵のモナリザもその延長上にある。

ローマ人という他民族の支配の下にあって、ガリアはラテン化され民族的にも混血しているが、自らの民族の独自性を忘れないということを示しているのだと思われる。ヴェルサンジェトリクスの英雄像や劇画「アステリックス」の底抜けの明るさとケルト民族の誇りがある。

以上で、敗者(被征服者)の死が後世の歴史ではどのように扱われたのかをフランスの場合で見てきた。日本での敗者の歴史的変容については次回に譲る。

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