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英語英文学科

2017.10.25

翻訳文学を読むこと│松井かや講師

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英語英文学科

エッセイ

子どものころ、本屋に入ると一冊だけ好きな本を買ってもらえるという我が家のルール(?)があって、商店街の小さな本屋に寄るのがとても楽しみでした。岩波少年文庫の『星のひとみ』もそうして出会った一冊で、それは、初めて夢中になって繰り返し読んだ「外国のお話」でした。ラプランドやヴァドセーといった土地の名、オーロラ、トナカイの引く橇、雪の中で拾われた赤ちゃんがその目の輝きから「星のひとみ」と呼ばれ、やがて何もかもを見通してしまうが故に疎まれて地下に閉じ込められてしまうこと―自分のいる場所とは何もかも違う世界を前に、ドキドキしていたことを覚えています。

先日ふとこの本を思い出し、もう手元になかったので改めて買ってみました。そして、今回初めて(子どもの頃には読まなかった)巻末の「訳者のことば」に目を通し、作者がザクリス・トペリウスというフィンランド人で、『星のひとみ』は19世紀にスウェーデン語で書かれた童話集であることを知りました。日本語版の初版は1953年で、今から60年以上前に翻訳されていたこともわかりました。

『星のひとみ』をきっかけに、多くの海外の児童文学作品を読みました。イギリスやアメリカ、ソ連、イタリア、ドイツ......そういった国々の作品が、私にはすべてひっくるめて「外国のお話」で、そこに出てくる風景やら料理やらを想像し、その世界に身を置くことが、楽しくて仕方なかったように思います。そんなふうに楽しめたのは、それらが日本語で書かれていたからで、つまり、私に初めての異文化体験をもたらしてくれたのは、それぞれの作品の翻訳者の方々だったのだと、『星のひとみ』の訳者である万沢まきさんの「訳者のことば」(平易な言葉で、フィンランドの歴史や地勢、北欧神話などにも触れられた素晴らしい解説です)を読みながら、改めて思い至ったのでした。

英語圏の小説を原文で味わう楽しさ、奥深さを知り、それが仕事の一部になった今も、私は翻訳作品をあれこれと読んでいます。そもそも私の場合、英語以外の外国語で書かれていたらお手上げなので、翻訳に頼る以外にないのですが。でもこの、いわば「原文と自分の間にもう一人立って」いて、その人の言葉を全面的に信頼して読み進める感覚が、私はとても気に入っています。自分一人では見えない世界を、外国語(と、それが内包する歴史や文化)をていねいに学んだ誰かが日本語にして見せてくれる。その誰かのおかげで、様々な異文化を、異世界を、「母語で」読み、感じ、想像することができる。幸せなことだと思います。

最近では、フランスとロシアの女性作家の作品に加えて、韓国と台湾の作家の短編集も読みました。旅行で見るのとは一味も二味も違う景色が、文学の中に豊かに広がっています。読書の秋、みなさんも本を開いて、異国を旅してみませんか。

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