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英語英文学科

2018.02.03

言語学の話をするなっしー!│山部順治准教授

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英語英文学科

エッセイ

船橋に(1)のような交通安全ポスターが貼ってあったそうです。下線部に注目!

   (1)  こっち見るなっしー! 前見て運転するなっしー(2014年10月10日)
       http://john173.blog.fc2.com/blog-entry-227.html

ツイッターを "みんな見るなっしー" で検索してみました。検出例の1つが(2)です。

   (2)  このあとすぐ、NewsZEROにふなっしーが出るよー みんな見るなっしー(2014年7月14日)
https://twitter.com/search?q=%22%E3%81%BF%E3%82%93%E3%81%AA%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%97%E3%83%BC%22&src=typd

 (1)と(2)の下線部は、発音は同一ですが、意味は否定・肯定に関して逆です。(1)では「見ない」ように、(2)では「見る」ように、促しています。

 (1)では、もともと「な」が2個連続していたものが1個省略されているのです。このように、同じ音が2個連続するとき1個が省略される事象を、haplology(ハプロロジー、重音脱落)といいます。

   (1)   見るな + なっしー →  見るななっしー → 見るなっしー

   (2)   見る + なっしー             → 見るなっしー

 次は、新聞の切り抜きです。政治家2名の提唱する経済政策について解説しています。この紙面にhaplologyの例が見られます。 
(3) エダノ(枝野幸男) +ノミクス → エダノノミクス → エダノミクス

(4) マエハラ(前原誠司)+ノミクス          → マエハラノミクス

 Haplologyは、なぜ起こるか?また、どんな場合に起こるか? 同音連続のある種のものは言いにくく、haplologyはそれを解消するために起こります。したがって、同音連続の言いにくい事例において起こります。上にあげた例は、理屈に従えば「見るななっしー」「エダノノミクス」のほうこそ正しいはずなのだが、実際に発音してみると変な感じがします。

 ふなっしーの例は、特に変わっています。ここでは、haplologyは、逆の意味に取られかねないという不都合をもたらします。にもかかわらず起こります。分かりやすさより言いやすさが優先されるわけです。

 ここまでで、Haplologyが起こることがある、ということは分かった。では、どのくらいの人数の人にとって起こるのだろうか? ふなっしーの例について、本学の授業でアンケート調査を行って調べました(2017年12月)。

 次の質問票を使用しました(一部分を抜粋)。6つの文 ―3つの場合(1)(2)(3)に対してそれぞれ2とおり(a)(b)の言い方― を回答者自身が言うか・言わないか、質問しています。

質問表「(ナ)ッシー」

質問表「(ナ)ッシー」

調査結果を、グラフに示します。数字は「言う」という回答の数(%)です。

調査結果「~(ナ)ッシー」

調査結果「~(ナ)ッシー」

調査参加者は45名でした。このグラフでは、45名のうち(1b)「ダメッシー」とは言わないと回答した34名について集計してあります。(なお、残りの11名は、(1b)を(まれにだが)言うと回答。この人たちは、「ナ」を含まない「ッシー」という別の語尾を、加えて持っていると考えられます。)

 グラフから以下のことが読み取れます。

 (1)は、同音の連続とは無関係である場合です。(a)「ナッシー」という語尾は(ふなっしーのまねをするとすれば)ほとんど全員が使います(97%)。

 これに対し、(2)(3)は、「ナ」で終わる語に「ナ」で始まる語尾が続く場合です。(a)「ナッシー」をそのままで付ける人は約3分の2(68%, 63%)に止まります。(b)「ナ」を1個省く人は1/3以上(34%, 41%)います。つまり、haplologyが1/3強の人数の人にとって起こっていることになります。

 (2)と(3)の相違を見ましょう。(2)では、(b)のようにhaplologyを起こすと、逆の意味(邪魔しなさい!邪魔しよう!)で解されかねません。一方、(3)の(b)では、その心配はありません。調査結果を(2b)から(3b)への方向で見ると、少数(7%)の違いだが、「ナ」を1個省く人数が増えます。つまり、1割弱の人たちが、言いやすさより分かりやすさを尊重し、(2)ではhaplologyを控えているのだ、と考えられます。

 haplologyの働きは、私たちが気がつかないないうちに、私たちの普段の言い方を変えていっているのです。

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