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日本語日本文学科

2019.10.01

”働くこと”を科学する|川﨑千加|日文エッセイ192

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日本語日本文学科

日文エッセイ

【著者紹介】
 川﨑 千加(かわさき ちか)
 図書館情報学 司書課程担当
 図書館も使った情報リテラシー教育を研究しています。


”働くこと”を科学する


1.はじめに

   職務満足(Job Satisfaction)の研究に出会ったのは、大学院の時だった。人は何のために働くのか、どんな時に仕事に満足感を感じたり、不満感を持ったりするのか。簡単に言えば、働きがい、やりがいの研究である。図書館は人的サービスであり、サービスを提供する司書の職務満足は、対人場面でのサービスの質に影響すると考える。どうすれば皆が楽しく、生き生きと働けるのか。どうすれば心からの笑顔で向き合えるのか。当時、大学図書館で働いていたが、予算削減や人員削減、図書館への無理解と大いに闘っていたので、司書の仕事のモチベーションを研究対象とすることにした。

2.職務満足に影響する要因

    職務満足の研究は、産業・組織心理学の分野で特に1950年代以降急速に発展したもので、様々な組織でいかに労働の効率性を高め、生産性を上げるのか、といった視点から展開されてきた。それは企業側の経営的視点でもあるが、一方で人間を中心とした働き方の研究でもある。有名な研究の1つにHerzberg,Frederickらの職務満足研究がある。彼らはさまざまな職種の従業員にインタビューを実施し、人はお金のためだけに働くのではなく、個人が成長したと感じられる仕事であること、スケジュールなどを自分で決められる仕事であるなど、仕事そのものの条件が重要であるとした。
 このような流れを汲む研究のひとつとして、Hackman & Oldam (1980)の ”Work Redesign”がある。彼らは仕事の特性を心理的な側面から分析し、仕事の満足感を高める要素として次の5つを挙げている。(1)自律性:スケジュールや段取りを自分で決めることができる、(2)一貫性:仕事の最初から最後まで責任を持って関わることができる、(3)スキルの多様性:自身のいろいろなスキルを活用することができる、(4)仕事からのフィードバック:仕事の結果がうまく行ったかどうかを自身が確認できる、(5)仕事の有意味性:自身の仕事が社会的に役に立つと感じられること。これらの特性がどの程度備わっている仕事であるかによって、自身が成長したという満足感や仕事そのものへの満足感やモチベーションが高まるとした。

3.司書の仕事の特性

 大学院では、司書の仕事の特性をこの5つの要素から見いだそうと、2003年から2004年に掛けて、35人の司書にインタビューを行なった。その結果から、司書の仕事の特性を分析した。まず、司書が仕事の上で満足感を感じる時はどのような時だろうか。表にまとめると次のようになった。

Table1 仕事の上で満足感を感じる時(延べ報告者数)
 満足感を感じる要因 計(名/35)
1.利用者の良い反応が直に感じられる時 26
2.技能の活用が生かせた時 15
3.自律的に仕事をしている時 9
4.全部が見えて仕事ができている時 6
5.図書館の仕事そのものを続けていること 3
6.体系的な資料の収集 2
7.その他 2

 1と2の回答は主に利用者から感謝されたことや、いろいろなイベントを企画して利用者が増加したり、自分の選んだ本が借りられていった時に『やった!』と思う、などの報告をまとめたものである。自らの知識や技能を活用した仕事の結果が、利用者の反応という「フィードバック」によって、良好であったことがわかった時に満足感が高まるのだ。また3と4は仕事の満足感を高めるためには、「自律性」と「一貫性」が司書の仕事にとっても重要であることを示していた。自分が企画から関わり1つのイベントをやり終えたなどの経験が、『やってよかった』、『大変だったけどおもしろかった』などの充実感や達成感、新たな仕事で成長した実感を持つことにつながっていることが伺えた。自身の知識や技能をいつ、どこで、どのように使うかを自身で決定できる「自律性」は、専門職として働く人々のやりがいに大きく貢献するものであった。
 さらに、司書の人たちの多くが「仕事の有意味性」を感じていることもわかった。それは、なぜこの仕事が好きなのか、という理由として述べられた。『誰かの役に立つ仕事』、『社会や地域を変えていける可能性がある』、『市民の豊かさを支援する仕事』、『利用者の成長が感じられる』など、人や社会に役立つという有意味感が仕事のやりがいに繋がっていた。
 

洲本市立図書館の書架

洲本市立図書館の書架

 
4.まとめとして

  インタビューでは、司書の仕事を他の職業に例えるとしたら、どんな仕事があるかを尋ねた。そこで出てきた仕事は、コンシェルジュ、花屋さん、ソムリエ、といった職業である。これらの仕事に共通することは、一人ひとりのお客様の求めに応じて、その時々にその人のニーズにぴったりなものや情報を提供する、ということではないだろうか。また、職人といった答えもあったが、それはお客様のニーズを読み取り、自らの知識を高めたり、技能を磨き続けることが必要な仕事であり、そのように成長していきたいという欲求に結びつくものでもある。
 インタビューではこうした司書のやりがいを阻害する要因も探った。それは最初に上げた人員や予算削減といったことに象徴されるが、社会的に有意味な仕事である、という認知がされていないことに起因するものだ。図書館に留まらず、働く環境は変わってきている。AIが台頭する中、“働くことがどのような意味を持つのか”は、あらためて問われることになるだろう。“働き方改革”が2017年度の流行語大賞にノミネートされたようだが、単なる流行ではなく、働くことを科学することが個々人が“より良く生きる”ことを考えることにつながれば、と思ったりする。


参考
拙著. 「生き生きと働くために: 司書の感情からのアプローチ」.『Lisn : Library & information science news』, (124) , 2005.9, pp.1-4.
 

図書館では、いつか誰かが求める資料を効率的に探し出すために目録を整備してきた。今は使われなくなった目録カードケース(大阪学院大学図書館にて)

図書館では、いつか誰かが求める資料を効率的に探し出すために目録を整備してきた。今は使われなくなった目録カードケース(大阪学院大学図書館にて)

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日本語日本文学科
川﨑千加准教授(教員紹介)

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