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日本語日本文学科

2019.09.01

現代小説から見る現代社会の問題|綾目 広治|日文エッセイ191

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日本語日本文学科

日文エッセイ

【著者紹介】
 綾目 広治(あやめ ひろはる)
 近代文学担当 昭和~現代の文学を、歴史、社会、思想などの幅広い視野から読み解きます。


 現代小説から見る現代社会の問題
                            

 新聞やテレビなどで米軍の普天間基地移転をめぐって、沖縄の問題が報道されていることは、みなさんもご存じでしょう。現代の作家たちは沖縄の問題を文学でどう捉え、どう描いているのでしょうか。その問題を正面から真摯(しんし)に受けとめている作家の一人に、2018年度の下半期の直木賞受賞作である『宝島』(講談社、2018・6)を書いた真藤順丈(しんどう・じゅんじょう)がいます。『宝島』は1952年から1972年までの沖縄、すなわち沖縄戦後の米軍統治時代からいわゆる本土復帰までの沖縄が舞台の小説です。以下、物語の内容を簡単に紹介します。
 物語は、孤児たちのリーダー「オンちゃん」と弟の「レイ」、そして「オンちゃん」の親友「グスク」たちが、生きるために物資を奪いに米軍基地に忍び込むところから始まります。「オンちゃん」たちは単なる盗賊ではなく、たとえば彼らが米軍の資材場からせしめた木材で小学校の校舎が建つなど、義賊(ぎぞく)のような存在でした。彼らは一番の「戦果アギヤー」と言われていました。
 「戦果アギヤー」とは土地の言葉で、「戦果をあげる者」という意味です。「オンちゃん」はそのリーダーで、仲間からは絶大な信頼を寄せられ、またコザ地域の人びとからは尊敬されていた英雄でした。しかし、物語冒頭の基地潜入では米軍の知るところとなり、「グスク」や「レイ」は辛うじて逃げ切れたのですが、「オンちゃん」の行方はわからなくなります。「オンちゃん」は生きて基地を出ることができたのか―。

沖縄の海(恩納村・万座毛)

沖縄の海(恩納村・万座毛)

 時は流れ、「グスク」は警察官になり、「オンちゃん」の恋人だった「ヤマコ」は小学校教師となり、「レイ」はヤクザ組織に入っていました。物語は、果たして「オンちゃん」は生きているのかはわからないまま、物語はミステリアスな要素を含みながら、実際に1970年のコザ(現・沖縄市)で起こった反米軍基地暴動でクライマックスを迎えます。
 「グスク」はその暴動を見ていて、「戦果アギヤーの魂が暴動に受け継がれて、コザのひとりひとりがみずから走るものに、島でいちばんの英雄になってよみがえった」と思い、次のように語ります。「このごろ思うのさ。おれのは死んでコザの思想信条になったんじゃないかって」、と。そして「レイ」も、「この夜の暴動は、基地の島がたどりついた民族のレジスタンスだ。この世界で生きていける場所を奪い返そうとする、戦果アギヤーの魂の発露だ」、と思っていました。さらには、その「魂の発露」をリードしているのが、「オンちゃん」ではないか、と。
 暴動の時も「オンちゃん」の行方はわからないままでしたが、あたかも人々は「オンちゃん」の指導に導かれたかのように「秩序」を保って行動したと語られています。「オンちゃん」は冒頭に登場するだけですが、影となってこの物語全体を牽引する精神的存在となっています。そして、それは〈反逆に道理あり〉とする高貴な魂である、と物語全体は語っています。この場合の〈反逆〉とは、米軍基地に対する、抵抗としての暴動だということです。
 小説では、「グスク」や「レイ」、「ヤマコ」などの登場人物それぞれの人生行路も丹念に語られていて、コザに生きた彼らの青春群像を通して、あくまで一端ですが、読者が沖縄の厳しい歴史を感得できる物語にもなっています。
 沖縄は、明治初年の〈琉球処分〉、アジア太平洋戦争の時の沖縄戦、そして戦後は日本にある米軍基地が集中するなど、過酷の歴史を歩んできました。今も、日本にある米軍機基地の75%が、日本の国土面積の1%しかない沖縄に集中しています。いわゆる本土の人たちはこの沖縄の現実をしっかりと認識しなければならないでしょう。
 沖縄の問題をテーマにした小説としては、他にも沖縄出身の芥川賞作家である大城立裕の、その名も『普天間よ』(新潮社、2011)や、同じく沖縄の芥川賞作家の目取間俊の『眼の奥の森』(影書房、2009)などがあり、沖縄の問題を鋭く突きつけています。現代文学を読むということは、現代に生きる私たちにとって、生々しく、かつ困難で辛い問題に直面することでもあります。しかし真の希望は、それらの問題を正面に据えて考えることによってのみ見えてくると思われます。現代小説を読むことを通して、一緒に現代社会の問題を考えてみませんか。



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ひめゆりの塔

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