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現代社会学科

2018.06.26

組織の理念分析―大学の場合―:学科の紹介【40】

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現代社会学科

授業・研究室

組織の理念分析
―大学の場合―

濱西栄司 准教授

 今回は、少し難しい話です。

 筆者は、いろいろな社会組織(組織未満の集団や群集も含め)について、社会学的な分析をおこなっています。普段、分析しているのは、たとえば、国際機関やNPO、NGO、会社、協同組合、行政組織等ですが、一昨年度から昨年度にかけて、国内外のカトリック系大学の理念や歴史に関する分析を求められる機会がありましたので、そのことをここではかんたんに御紹介します。

1.組織の目的(理念)

 まずは「組織」(organization)というものの基礎知識。組織には必ず「目的」(メンバー共通の目的)が存在します――場合によって「理念」という言い方もされます(図1)。会社であれば、利潤の追求。国家であれば憲法に示された理念等々。

 図1 組織とその目的(理念)

 図1 組織とその目的(理念)

どのような組織であっても、組織の目的(理念)を把握することが、組織分析の第一歩です。もちろん、現実の組織は、目的(理念)を不十分にしか実現できていません。ですが、目的(理念)を把握することで、その実現を妨げている要因を客観的に分析することができます。また現実の組織を評価し、改善していくこともできるようになります。そのため、会社であっても、国家でも、国際機関であっても、NPO法人であっても、まずその組織の目的(理念)に注目することが重要なのです。

2.大学組織と重層的な理念規定

 さて世界中に存在する「大学」という組織も、それぞれ目的(理念)を有しています。ここでは、理念を特に重視している私立大学、その中でもカトリック系大学の場合について考えてみましょう。参考にしたのは、主に全米カトリック大学協会(ACCU)の資料(注1)等です。

 ACCUによれば、まず①カトリックの教育理念は、「教育の普遍的権利」、「道徳的宗教的教育」、「信仰と科学の調和」、「リベラル・アーツ」(注2)といった特徴をもつとされています。その上で、本学のように設立母体(修道会等)が、②「Marianist」(聖母マリア系:「信仰の人」、「聖母マリアの追従者」、「コミュニティの人」、「平等の原則」、「ミッションのリーダー」であることを重視)の場合、その教育理念は、「信仰の下での陶冶に向けた教育」「統合された質の高い教育」「家族的精神のなかでの教育」「奉仕、正義、平和のための教育」「適応と変化のための教育」の提供にあるとされます。さらに本学の場合、設立母体は、③聖ジュリーの実践(貧しく虐げられた人のために働き、行動を大切にし、教育者の教育を重視し、生活と教育を一致させる)を範としており、教育理念にもそれらの特徴が現れることになります(注3)。カトリック系大学の教育理念は、基本的に、このように重層的に規定されることになるわけです(図2)。

図2 教育理念の重層的規定(全米カトリック大学協会資料他を基に筆者作成)

図2 教育理念の重層的規定(全米カトリック大学協会資料他を基に筆者作成)

もちろん、実際の組織は、理念どおりにはなりません――本学であれば、戦前・戦中・戦後の大学運営の歴史と日本の法律等に影響を受けています。それでも、理念をまず把握することによって、現実の組織とのズレの原因を探ることができますし、改善していくための方針を立てることもできるのです。これは会社でも、国家でも、国際機関でも基本的に同じことです。組織の分析においてまず理念を把握することは、非常に重要なのです。



1)全米カトリック大学協会(Association of Catholic Colleges and Universities :ACCU)会長によるThe Catholic Intellectual Tradition at Catholic Colleges and Universities(PP)、及びAssociation of Catholic Colleges and Universities のHP内のCatholic Intellectual Traditionページ等を参照。

2)「リベラル・アーツ」という言葉は日本でも知られていますが、カトリック系とプロテスタント系の違いはほとんど知られていません。そもそも「リベラル・アーツ」教育とは、特定分野の知識・技術を狭く極めるのではなく、広い視野に立ったものの見方や考え方を身につけたリーダーの育成、を念頭におくものです。もともとは人々を導くキリスト教の宣教師の育成のための手法でしたが、その後、さまざまなコミュニティのリーダー、政治家の育成につながり、現在では、自分・社会のために知識を得る人、責任ある個人、世界に関わる人を養成するという理念を共有しています。具体的には、大学においては、幅広い科目を用意し、少人数制を徹底し、根拠を示す・求める力を磨き、読み・書き・意思疎通する力、論理力、言語力、質問力を養うことを重視するカリキュラムとして表れます。ただし、カトリック系とプロテスタント系で違いもあります。Catholic Education Research CenterのHP内のThe Value of a Catholic Liberal Arts Educationページにもあるように、「プロテスタント系リベラル・アーツ」(PLA)は、自由をかなり重視し、また学生の判断を重視します。それに対して、「カトリック系リベラル・アーツ」(CLA)は、(特にカリスマに関わる)宗教的な儀式・儀礼を重視し、自由放任ではなく、互いに「コミュニティ」のメンバーとして面倒をみるという特徴があります。PLAの代表はたとえばアメリカのAmherst、Wellesley、Williams大学などです。日本では国際基督教大学(ICU)がそうだといえます。CLAの代表格は同じくボストンカレッジなどであり、国内では本学などです。

3)シスター・オブ・ノートルダム(1934)、ノートルダム清心女子大学(1970)、メリー・リンスコット(1970)等を参照。

参考文献

ノートルダム清心女子大学、1970『ノートルダムの教育――その理念と方針』ノートルダム清心女子大学.
シスター・オブ・ノートルダム、1934『福者ジュリー・ビリアート伝』清心高等女学校.
リンスコット・M、1970、『講演録 メリー・リンスコット ノートルダムの教育』ノートルダム清心女子大学.


参考サイト

・Association of Catholic Colleges and Universities のHP内のCatholic Intellectual Traditionページ
http://www.accunet.org/About-Catholic-Higher-Ed-Catholic-Intellectual-Tradition (最終閲覧日:2018/6/4)

・Catholic Education Research CenterのHP内のThe Value of a Catholic Liberal Arts Educationページ
https://www.catholiceducation.org/en/education/catholic-contributions/the-value-of-a-catholic-liberal-arts-education.html (最終閲覧日:2018/6/4)

・Institute of Catholic Liberal EducationのHP
https://www.catholicliberaleducation.org/news.html (最終閲覧日:2018/6/4)

・Learn.orgのHP内のCatholic Liberal Arts Collegesページ
https://learn.org/articles/Catholic_Liberal_Arts_Colleges_Your_Questions_Answered.html (最終閲覧日:2018/6/4)


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