2018.04.01
日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第174回】 2018年4月1日
【著者紹介】
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。
〈文学創作の新たな発信〉と〈文学を軸とした岡山のまちづくり〉
―2017年度から開始した日本語日本文学科学生の2つの挑戦―
日本語日本文学科の学生の活動として、2017年度に新たに開始した2つの動きがありました。学生たちが文学についての学びと人生および社会への思いを深めて主体的に挑戦している姿には、才能の発揮とその過程を通しての目覚しい成長が見られ、これらは紹介せずにはいられない画期的な活動となりました。
その2つの活動とは、まず1つ目に、授業「文学創作論」の受講生が、授業で創作した作品を脚色して、県立生涯学習センターのプラネタリウム「サイピア」で「星空と音楽をめぐる自作朗読会withリンクアップとっしー」と題した自作朗読会を行ったものです。2つ目は、日文の学生有志が「ツボジョーワールド探検隊」という坪田譲治を軸とした活動団体を結成し、岡山市の「大学生まちづくりチャレンジ事業」に応募して採択され、多くの企画に挑戦したという活動です。
プラネタリウムでの自作朗読会 (授業「文学創作論」)
「文学創作論」では毎年学生の創作した作品の文集を発行しており、また既成の作品を朗読する体験は毎年行っていますが、学生自身が創作した作品について朗読会を行うことは初めてでした。
2017年9月の土曜日に行われた自作朗読会の本番に至るまで、前期の授業では朗読の学びから創作の学びへと進み、短編作品を仕上げていきます。これらの学生の創作内容は、体験を描いたエッセイをもとに書かれました。2017年はプラネタリウムでの朗読会が予定されていることを考慮して素材として天体が関係するエッセイを書くことに始まり、そのエッセイを創作作品として再構成し仕上げていきました。初めて文学創作をするという学生もいましたが、どの学生もそれぞれ文学創作に至る過程で、そこに切実な人生の問題を確かに見出し、それを生かすことがおのずとできていきます。天体に関する描写が入るという要素も、実感からくるリアリティが出るとともにテーマを際立たせる効果につながりました。
この作品を自ら聴衆を前にして朗読するということについては、どんなふうに作品を受けとめてもらえるのか、学生たちの心に不安が渦巻いていたようでしたが、朗読では、作者がナレーションを務め他の受講生が会話文の朗読を行う協同の形にしたことに加え、プラネタリウムの独特の雰囲気によって作品世界が不思議な広がりを見せてきたことに自信をもてるようになったようです。
プラネタリウムでは、学生は観客の後ろの光が漏れないようにした場所で、姿を見せずに朗読をします。その声が導く作品の描写にあわせて、主人公が見たままの風景として、日が暮れたり、流れ星が流れたり、月が移動したり、またオリオン座のベテルギウスが光ったりする光景が目の前に展開します。
今回朗読した7作品に対して観客から大きな拍手をいただいたことで、会場に感動が満ちていることを感じ取り、学生たちは達成感に満たされていました。
【第174回】 2018年4月1日
【著者紹介】
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。
〈文学創作の新たな発信〉と〈文学を軸とした岡山のまちづくり〉
―2017年度から開始した日本語日本文学科学生の2つの挑戦―
日本語日本文学科の学生の活動として、2017年度に新たに開始した2つの動きがありました。学生たちが文学についての学びと人生および社会への思いを深めて主体的に挑戦している姿には、才能の発揮とその過程を通しての目覚しい成長が見られ、これらは紹介せずにはいられない画期的な活動となりました。
その2つの活動とは、まず1つ目に、授業「文学創作論」の受講生が、授業で創作した作品を脚色して、県立生涯学習センターのプラネタリウム「サイピア」で「星空と音楽をめぐる自作朗読会withリンクアップとっしー」と題した自作朗読会を行ったものです。2つ目は、日文の学生有志が「ツボジョーワールド探検隊」という坪田譲治を軸とした活動団体を結成し、岡山市の「大学生まちづくりチャレンジ事業」に応募して採択され、多くの企画に挑戦したという活動です。
プラネタリウムでの自作朗読会 (授業「文学創作論」)
「文学創作論」では毎年学生の創作した作品の文集を発行しており、また既成の作品を朗読する体験は毎年行っていますが、学生自身が創作した作品について朗読会を行うことは初めてでした。
2017年9月の土曜日に行われた自作朗読会の本番に至るまで、前期の授業では朗読の学びから創作の学びへと進み、短編作品を仕上げていきます。これらの学生の創作内容は、体験を描いたエッセイをもとに書かれました。2017年はプラネタリウムでの朗読会が予定されていることを考慮して素材として天体が関係するエッセイを書くことに始まり、そのエッセイを創作作品として再構成し仕上げていきました。初めて文学創作をするという学生もいましたが、どの学生もそれぞれ文学創作に至る過程で、そこに切実な人生の問題を確かに見出し、それを生かすことがおのずとできていきます。天体に関する描写が入るという要素も、実感からくるリアリティが出るとともにテーマを際立たせる効果につながりました。
この作品を自ら聴衆を前にして朗読するということについては、どんなふうに作品を受けとめてもらえるのか、学生たちの心に不安が渦巻いていたようでしたが、朗読では、作者がナレーションを務め他の受講生が会話文の朗読を行う協同の形にしたことに加え、プラネタリウムの独特の雰囲気によって作品世界が不思議な広がりを見せてきたことに自信をもてるようになったようです。
プラネタリウムでは、学生は観客の後ろの光が漏れないようにした場所で、姿を見せずに朗読をします。その声が導く作品の描写にあわせて、主人公が見たままの風景として、日が暮れたり、流れ星が流れたり、月が移動したり、またオリオン座のベテルギウスが光ったりする光景が目の前に展開します。
今回朗読した7作品に対して観客から大きな拍手をいただいたことで、会場に感動が満ちていることを感じ取り、学生たちは達成感に満たされていました。
「ツボジョーワールド探検隊」(大学生まちづくりチャレンジ事業)
岡山市出身の小説家・児童文学作家の坪田譲治をめぐってまちづくり活動をめざした3年生6名によるこの団体は、2017年度の初めに結成されました。学生たちにとっては、日ごろの文学研究を、学外の教育現場や社会で意義深く働きかけるものへとつなげる挑戦の場でありました。さらに、文学をもとにした地域貢献の可能性を探る議論をするなかで、これまで各自が得意としていた文学はもちろん漫画、写真、朗読、音楽の分野で、まちづくりへ貢献する力を試しながら発揮するチャンスでもありましたし、教職や公務員、マスコミ関係など将来希望する各自の目的を確認しながら社会人への学びを行う場でもありました。また実際に、学生の意欲的かつ自主的な企画によって、驚くほど充実した計画がびっしりと立てられました。これだけの計画が実際できるだろうかとやや心配になるくらいでしたが、学生たちは授業の合間に集まったり、各自深夜まで作業をしたりしながら、互いの協力のもと全てやり遂げたのです。
学生たちは、作家紹介のための冊子づくり、イベントで披露するテーマソングの作曲、さらに作品朗読やトークショーなど、それぞれの才能を次々と生かしていきました。さらに、岡山の坪田譲治ゆかりの地を楽しんでめぐってもらえることに意味があると考え、スタンプラリーを企画しました。これには、スタンプ置き場やクーポン協力店の視察と交渉を重ね、そのための依頼の書類を作る必要もありました。この企画でもスタンプ画をデザインし、景品に手作りのブックカバーを作成するほか譲治の生涯をデザインしたしおりを原画から描いて作成したいと話し合い、知恵と労力を振り絞って心を込めて実現させました。
どれひとつを取っても、それぞれの活動が人々に与える意味を考えることを大切にして心を込めて行うことは貴重な体験であり、こうした文学を軸にした初めての社会的な活動への挑戦からかけがえのない収穫を得たことは言うまでもないでしょう。
最後の行事が12月に終わって全てを振り返ったとき、社会人になる前に貴重な体験ができ、また自身が岡山の魅力に開眼できて人にも伝える力を試し、将来像をつかめたことは本当に良かったという感想を皆涙ながらに述べてくれました。さらに、2018年2月に行われた活動報告会では、岡山市長より本事業における特別賞が授与されました。
両活動とも、今後も継続させる予定です。〈文学の力〉を基盤とした学生たちの挑戦力と心の成長に期待をし、こうした成長を求めて学生がさらに集ってくれることを望んでいます。
岡山市出身の小説家・児童文学作家の坪田譲治をめぐってまちづくり活動をめざした3年生6名によるこの団体は、2017年度の初めに結成されました。学生たちにとっては、日ごろの文学研究を、学外の教育現場や社会で意義深く働きかけるものへとつなげる挑戦の場でありました。さらに、文学をもとにした地域貢献の可能性を探る議論をするなかで、これまで各自が得意としていた文学はもちろん漫画、写真、朗読、音楽の分野で、まちづくりへ貢献する力を試しながら発揮するチャンスでもありましたし、教職や公務員、マスコミ関係など将来希望する各自の目的を確認しながら社会人への学びを行う場でもありました。また実際に、学生の意欲的かつ自主的な企画によって、驚くほど充実した計画がびっしりと立てられました。これだけの計画が実際できるだろうかとやや心配になるくらいでしたが、学生たちは授業の合間に集まったり、各自深夜まで作業をしたりしながら、互いの協力のもと全てやり遂げたのです。
学生たちは、作家紹介のための冊子づくり、イベントで披露するテーマソングの作曲、さらに作品朗読やトークショーなど、それぞれの才能を次々と生かしていきました。さらに、岡山の坪田譲治ゆかりの地を楽しんでめぐってもらえることに意味があると考え、スタンプラリーを企画しました。これには、スタンプ置き場やクーポン協力店の視察と交渉を重ね、そのための依頼の書類を作る必要もありました。この企画でもスタンプ画をデザインし、景品に手作りのブックカバーを作成するほか譲治の生涯をデザインしたしおりを原画から描いて作成したいと話し合い、知恵と労力を振り絞って心を込めて実現させました。
どれひとつを取っても、それぞれの活動が人々に与える意味を考えることを大切にして心を込めて行うことは貴重な体験であり、こうした文学を軸にした初めての社会的な活動への挑戦からかけがえのない収穫を得たことは言うまでもないでしょう。
最後の行事が12月に終わって全てを振り返ったとき、社会人になる前に貴重な体験ができ、また自身が岡山の魅力に開眼できて人にも伝える力を試し、将来像をつかめたことは本当に良かったという感想を皆涙ながらに述べてくれました。さらに、2018年2月に行われた活動報告会では、岡山市長より本事業における特別賞が授与されました。
両活動とも、今後も継続させる予定です。〈文学の力〉を基盤とした学生たちの挑戦力と心の成長に期待をし、こうした成長を求めて学生がさらに集ってくれることを望んでいます。