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日本語日本文学科

2019.02.01

また書いてね ―第34回岡山市文学賞・市民の童話賞の表彰式を終えて―|星野 佳之|日文エッセイ184

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日本語日本文学科

日文エッセイ

  
星野 佳之 (日本語学担当)
古代語・現代語の意味・文法的分野を研究しています。
 
 2年前から、岡山市主催「市民の童話賞」の小中学生の部の選考委員を務めています。このたび、その表彰式が本学にて開催されました。このエッセイでは、入賞作がどのようにして選ばれるのか、その一端をご紹介したいと思います。

 今年は297作の応募がありました。これを市内の学校図書館司書の人達が分担して読んで、予備選考をしてくれます。これを通過した57作品について、私を含む4人の選考委員が全て読んだ上で集まり、「若干数」と定められた入選と佳作を選びます。今年は最終的に入選5作品、佳作3作品を選びました。
 選考は楽しくもあり、大変な作業でもあります。応募作品はそれぞれに工夫の凝らされた物語ですから、楽しいというのは当たり前ですが、それだけに何作品かに絞らねばならないというのが、とても大変なのです。選考委員同士の好みが合う作品を残せば良いというものでもありません。
 特に今年は、選考中に何度か私たちの間で、「『童話』としてはどうなのだろうか」というやりとりが持ち上がりました。どういうことかというと、最近はウェブ上で、短く整えられていて、しかも意外な結末が用意されているようなストーリーに接することが多くなりましたね。「後で気づくと怖い話」とか。でも、あれらの全てが「童話」なのでもないわけです。「よくまとまっている」とか、まして「子どもが出てくる」というだけで、直ちに童話だとはならないだろうということで、私たちはところどころ悩んだのでした。
 それは結局「童話とは何か」を考えることに他なりませんし、選考委員の私たちだって必ずしも確実な答えを持っているわけではありません。今回応募してくれた小中学生から問いかけられて、共に考えたという感じがします。
 また、「良く書けている」というのも一筋縄ではありません。テーマの主張がはっきりしている、或いは展開がスムーズなど、読みやすい作品は毎年多く届けられます。そんな分かりやすい文章を小中学生で書けること自体が既に素晴らしいことです。しかし、言葉で説明され尽くした明確な文章は時として「解説」に傾きやすく、その分「物語」からは遠ざかってしまうことがあります。その意味で、表彰式の時に森田恵子さん(一般の部選考委員)が「全てを書いてしまうのが物語ではない。作者と読者との間にやりとりが成立しなければならない」というように仰っていたのは、全く同感です。
 こういうことを考え、応募された作品群の広がりにも見合うように心がけて、入賞作を選考委員会で決めました。こんなわけですから、今回は選に入らなかった作品にも、本当におもしろい話がいくつもあったのです。

『おかやま しみんのどうわ2019』(ふくろう出版)

『おかやま しみんのどうわ2019』(ふくろう出版)

 表彰式では、岡山市長から賞状が作者のお一人お一人に手渡されます。私は当日、そのうちのお二人、『本の家出』を書いた難波明花さん、『アルビレオの宝石』の辻颯太郎さんと、直接お話しする機会が持てました。
 難波さんは、小説や図鑑、マンガといった主人公たちを描き分けようとしたことを、一生懸命お話ししてくれました。それが各キャラクターの性格として結実しているだけでなく、家と図書館の本それぞれの生涯が交差するストーリーに、立体感を与えていると思います。辻さんは表彰式の後にも会場に残り、一枚の絵を見て物語の冒頭を書き始めてみるというワークショップに参加してくれました。この実作が即興なのにまた非凡な出来栄えで、同じ班の参加者たちから、「さすがね」とか「将来は芥川賞かな」などと言われていました。大げさな褒め言葉でもないと私は思っています。
 難波さん、辻さんの他、全ての受賞者の皆さんに、表彰式の会場で多くの人が口々に言っていたのが、「また書いてね」という言葉でした。受賞者のみなさんも、今回は入賞に至らなかった方も、そしてまだ応募したことのない方も、ぜひまた書いてほしいと思っています。
 それと同時に、或いはむしろ受賞者よりも、ご来場下さった皆さん、岡山の皆さん、そしてまだこの市民の童話を読んだことのない方に、「(また)読んでね」と申し上げたいと思います。私たちは幸せなことに、毎年毎年34年続けて小中学生がお話を生み出してくれるような、いい街に住んでいます。でもそれは当たり前のことではないのです。みんなが本を買い、お話を読み、楽しいとか悲しいとかと感じたり考えたりを続けていかないと、そんないい街はいつの間にか無くなってしまうかもしれないのです。読者のいないところに物語はありません。
 入賞作品は、どれもとても面白く、すばらしい童話です。一般の部の受賞作とあわせて、『おかやま しみんのどうわ 2019』(ふくろう出版)という本になりました。ぜひ手に取って、読んでみてください。

● 岡山市「市民の童話賞」については こちら をごらん下さい。
● 作品集『おかやま しみんのどうわ 2019』(ふくろう出版)は、リンク先出版社のサイトを経由しても購入できますし、岡山市内の各書店でも販売されています。
● 過去の表彰式の様子については こちら でご紹介しています。あわせてご覧下さい。

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