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日本語日本文学科

2019.03.01

日本文学概論という講義|原 豊二|日文エッセイ185

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日本語日本文学科

【著者紹介】
 原 豊二(はら とよじ)
 古典文学(中古散文)担当
 源氏物語など平安時代の文学を多角的に研究しています。

  

  日本文学概論という講義

 

 現在、「日本文学概論Ⅰ」という講義を担当している。この講義は主に古典文学に関わる内容を教授するもので、その準備にはいくらかの手間と時間を要した。
 開講にあたり、まずは教科書の選定を考えてみた。各出版社のホームページなどを見ながら、現在の学生に合う教科書がないものかと探し続けた。新刊で手に入るものもあったが、古本でしかないものも多く、とにかく「日本文学概論」と名の付く書籍をかたっぱしから収集してもみた。自分が学生時代に使った『日本文学概論 改訂版』(秀英出版・1968初版)も手に入れたが、これらかつての大学で使用されていた教科書類は、出版年時も古く、内容も詳細であるが難解、本の装丁も重苦しいものが多く、言い方は悪いが、もはや時代に合わないシロモノのようにしか見えなかった。
 このように思い悩んでいた時に、学会会場で出会った出版社の方に「だったら、ご自身でお書きください。」と言われ、この提案自体にも正直驚いたが、この時は全くそんなものを書くような勇気はなかった。
 こうしているうちに開講年度となり、具体的な授業準備が始まることになった。前年度まで「日本文学史Ⅰ」は教えていたので、その講義との差別化が大きな課題だった。特に前年度「日本文学史Ⅰ」を受講した学生のほとんどが「日本文学概論Ⅰ」を受講する事態となり、同じようなことを話すわけにはいかなかったのである。
 文学史というのを教えるのもそれなりに大変だったが、高校生向けのものも含めて、この分野に関連する教科書は多く刊行されていて、その講義環境は整っていた。また、文学史は作品や作者を時代順に並べて扱うものであるから、上代から中古、中世とより体系的であった点にも助けられた。
 ところが、日本文学概論の場合、「日本文学の形態」「日本文学の理念」「日本文学の研究」「日本文学の課題」といったように、時代を大きくまたぎつつ、抽象的な内容も含めて教えなくてはならない。教科書が充実していないこともさることながら、それらの古い教科書がそれぞれに内容を大きく異にしているということにも気付かされた。収集した教科書の良いところを探し出して、学生に提示するような講義を当初はしていくより仕方がなかった。
 それでも、古典文学に関わる「形態」や「理念」など、こうした問題に向き合ううちに、躊躇していた教科書執筆への微かな意欲が湧いてきたのである。というのは、毎回真面目に私の講義を聴いてくれる学生たちを前にして、自分なりにこの講義の答えのようなものを伝える義務があるのではないかと思えてきたからだった。そのことに加えて、教育効果を上げるという目的のためにも、やはり教科書はあった方がよいと純粋に考えた。
 早速、出版社と相談してとにかく入稿できるよう執筆にとりかかった。自身の怠慢な性格も手伝って、入稿までこれもまただいぶ時間がかかり、翌年の講義にも出版は結局間に合わなかった。入稿後は校正や写真の選定などがあり、これも教科書という性質上だいぶ気をつかったが、『日本文学概論ノート 古典編』(武蔵野書院)は2018年10月になんとか上梓することができた。
 その後早い段階で多くの大学の先生に読んでいただき、そして多くの感想をいただいた。「もっと原さんの個性を出した方がよかった」とか、あるいは「文の末尾が「思います」調なので、講義で自分が話すという形式では扱いにくい」とかいろいろな感想があった。また、他の大学で課題図書・推薦図書にしていただけるような話もあって、うれしくも思った。
 本の内容はおおむね「日本文学概論Ⅰ」の講義で話したことであり、講義の記録という側面ももちろんある。だが、今後の講義ではこの教科書をもとにしつつ、さらにブラッシュアップを重ねていきたいと思っている。このようにして「生きた教科書」にしたいというのが私の願望だ。学生たちとコミュニケーションを取りながら出来上がってきたものであるが故に、次の受講生たちの反応が楽しみでもある。
 この教科書の裏表紙の見返しには、宇治川沿いに設置された紫式部像を掲載させていただいた。これも実は本学のゼミ合宿中に撮影したものである。最後になるが、紫式部像のカラー写真の使用をお許しいただいた宇治ライオンズクラブの皆さまに御礼を申し上げたい。
 

原豊二著『日本文学概論ノート 古典編』(武蔵野書院、2018)

原豊二著『日本文学概論ノート 古典編』(武蔵野書院、2018)

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