日本語日本文学科

2026.05.13

シンポジウム「ノートルダム清心女子大学附属図書館蔵「黒川文庫」に見る古典学の歩み」実施レポート

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江草弥由起(本学教員)が代表を務める基盤(C)23K00310研究グループの研究成果報告シンポジウムを、2026年度3月16日に本学トリニティホールT-32トリニティコモンズにて実施しました。本研究は、本学が所蔵する黒川文庫(国学者一族黒川家が三代に渡り集めた蔵書群のこと)を対象とし、江戸末期から明治期にかけての近代化する社会の中における古典学のあり方の解明を進めたものです。文学研究と聞くと、一点の作品を深く読解したり、一人の作家を追究したりという方法が想像されることが多いかと思います。本研究では、受け継がれた作品や先人たちが残した知の結晶を、学者一族が継承していった蔵書群とそれら蔵書に残された習学の跡を具体的に探ることから、学問がどのように継承されたのかという「人の知の営み」を考えることに取り組みました。


野澤真樹先生(京都女子大学)からは、文庫の全体像から黒川家が何に関心を寄せていたのかを把握するために行なった文庫目録作成の意義についてのご報告、海野圭介先生(早稲田大学)からは日本古典籍のデジタル化により可能となる研究方法の実態と展望、そして研究成果を継承し研究を促進させるデータ活用のご報告、木下華子先生(東京大学)からはノートルダム清心女子大学蔵黒川文庫本の『無名抄』研究における資料価値の高さとそこから見える黒川家の古典籍蒐集の姿勢についてのご報告がありました。

江草(本ブログ執筆者)からは黒川文庫には黒川家が公に示すまでの古典学の歩みだけでなく、公で示したものとは異なる私的な学問の形跡を見ることが可能であること、そして2024年度本学日本語日本文学科の中世文学講読Ⅲの授業で実施した黒川文庫を活用して教育実践の報告をしました。来場者に、その授業から着想を得たものを卒業論文に発展させて優秀な成績を収めた卒業生 がいたのでコメントを求めたところ、研究に関わることができた感動と、本学で学ぶことができた喜びを熱く語ってくれ、成長した姿に胸が熱くなりました。

異なる研究分野の先生がたもご来場くださり、分野を超えた情報交換ができたことも、本シンポジウムの成果でありました。他分野の先生からのご感想を一部ご紹介します。

資料のデジタル化とデータ公開は歴史学の分野でも必要とされていることです。所蔵資料を公開していくことが、多彩な研究者による資料の創造的な活用や保護につながるところも共通しています。大学の社会的役割についても考えさせられるシンポジウムで、文学と歴史学の協働をもっと進めていければと思います。(本学現代社会学科 久野先生)

発表をお聞きし、研究方法や素材が違えど何かを探求する姿勢は共通するものがあるのかなと感じます。現在、情報分野、特にAIに関する研究では、圧倒的な情報データの中から、未知の事実や研究手法を見つけ出すことに成功しています。文学の研究の一つの方向性として、伝統的な文学の読み取り方やアプローチに加え、生成AIに代表される情報科学的アプローチが、過去に生きた人たちと作品を通して会話する、あるいは当時のご時世や作者の内面と対話する手法として文学研究のお役に立てると良いなと思いました。(本学情報デザイン学科 河野先生)

黒川家は、江戸末期から明治期の急激に社会が近代化し、自国の文化や学問を相対的に捉えることが急速に求められた転換期に学問に向きあった人々です。現在、膨大な情報処理が可能となったことにより、その技術を有効に活用した研究成果が急速に求められるようになりました。文学分野に身を置く人間として、もしかしたら私たちもある意味で「学問の転換期」にいるのかもしれないと思うのです。
 

(本学日本語日本文学科 江草弥由起)