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日本語日本文学科

2013.04.01

岡山の文学者たち──反骨の系譜|綾目 広治|日文エッセイ114

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第114回】2013年4月1日
岡山の文学者たち───反骨の系譜
【著者紹介】
綾目 広治(あやめ ひろはる)
近代文学担当

昭和~現代の文学を、歴史、社会、思想などの幅広い視野から読み解きます。

 岡山県在住の人たちにも意外に知られていないことですが、岡山県は日本の近代文学で実に多くの文学者を輩出した県で、その数と多彩さは、東京や関西などの大都市圏を除いて考えると、屈指と言ってもいい県です。それも、明治初期の翻訳の時代から平成の今日に至るまで、途切れることなく力量のある有名な文学者が出ていることに驚かされます。
 たとえば、明治初期の翻訳の時代では翻訳王と言われた森田思軒(もりた しけん)、明治二十年代には小説家の江見水蔭(えみ すいいん)、三十年代の浪漫主義では詩人の薄田泣菫(すすきだ きゅうきん)、四十年代の自然主義では正宗白鳥(まさむね はくちょう)、大正期に入ってからは私小説(わたくししょうせつ)の近松秋江(ちかまつ しゅうこう)、画家で詩人でもあった竹久夢二、戦前昭和ではプロレタリア文学の里村欣三(さとむら きんぞう)、片岡鉄平というふうに、日本近代文学の各時代の文芸思潮を代表する文学者を輩出しています。現代でも、小川洋子、重松清、あさのあつこ、さらには『ぼっけえきょうてい』の岩井志麻子や高嶋哲夫(映画化された『ミッドナイト・イーグル』の原作者)などの作家が活躍しています。
 また、岡山出身だけでなく、岡山に縁(ゆかり)のある文学者まで含めると、それらの文学者たちだけで日本の近代文学史が語れるほどです。それらの文学者の中で、とくに大いに評価されていいのではないかと思われるのは、反骨の系譜と言いたくなるような一群の文学者たちがいることです。反骨というのは、権威や権力に靡(なび)かず、むしろそれらに抵抗しようとすることです。
 岡山市出身の内田百閒(うちだ ひゃっけん)という文学者は、戦中に陸軍の肝いりで作られた日本文学報国会に最後まで入会することを肯(がえん)じなかった人でした。日本文学報国会にはほとんど文学者が入会していて、この会に入らないと軍部に睨(にら)まれたのですが、根っからの軍隊嫌い、軍国主義嫌いの内田百閒は日本文学報国会には最後まで入会せず、その反軍の姿勢を貫きました。これは勇気のいることです。
 その百閒を慕うところのあった、岡山市生れの作家である吉行淳之介も、その作風から一般には軟派のイメージがあると思われますが、反骨の精神を持った文学者でした。彼は1941年12月8日の真珠湾攻撃のあった時には旧制中学生でした。真珠湾攻撃のニュースが校内アナウンスで報道された時、ほとんどの生徒が「万歳!」をするためにグラウンドに出ましたが、淳之介少年はただ一人教室に残っていたそうです。後に、彼は「そのときの孤独の気持と、同時に孤塁(こるい)を守るといった自負の気持を私はどうしても忘れることはできない」と語っています。

 吉行淳之介と同様に、その絵の作風から弱々しいイメージがある、邑久郡出身の竹久夢二も、実は反骨精神のある人でした。彼は幸徳秋水が主筆であった「平民新聞」にも挿絵を描いていて、社会的な弱者や貧者に眼を向ける人でもありました。竹久夢二の描く美人画の多くの女性たちが薄幸(はっこう)の女性をイメージさせるのは、やはり恵まれない人たちに向ける彼の暖かい眼差しがあるためでしょう。
 『眠狂四郎』シリーズで有名な、邑久郡生れの作家である柴田錬三郎も、反骨の系譜に入る人です。眠狂四郎(ねむり きょうしろう)はニヒリスト剣士として知られていますが、そのシリーズをよく読むと眠狂四郎が弱者や子どもには無条件で優しい剣士であったことがわかります。また、眠狂四郎の親友の中には、あの義賊の鼠小僧次郎吉や貧民のために義挙を企てた大塩平八郎がいたとされています。このあたりにも、柴田錬三郎の思いが込められていると言えましょう。柴田錬三郎も反軍姿勢の持ち主でした。
 このように岡山出身の文学者たちの中には言わば反骨の系譜を見ることができますが、彼らは決して反体制思想の持ち主ではありませんでした。むしろ、ノンポリティカル(非政治的)と言えます。しかしながら、反体制イデオロギーを声高に語ったりした多くの文学者や思想家たちが、たとえば戦中に軍国主義に脆(もろ)くも崩れ去ったことを考えると、ノンポリティカルな彼らの反骨精神から学ぶべきことはたくさんあると思います。本学科では彼らの文学についての講義もあります。彼らの文学から反骨の精神について考えてみませんか。

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