埋蔵文化財
上伊福九坪遺跡
弥生土器の美から見えるもの
1983年、現在のカリタスホール建設に伴って行われた発掘調査によって、弥生時代中期から古墳時代前半期を中心とした遺物、遺構が確認されました。特に一括して出土した弥生時代の土器群は我々の心に強く語りかけます。その優美でスマートなフォルムは祭祀に関する機能を想起させます。
通常、弥生土器にはロクロは使用されておらず、基本的には粘土紐を積みあげる縄文土器と同じ製作技法が採用されたとされます。また縄文土器に比して弥生土器が高温で硬く焼かれたとは必ずしも言えず、焼成温度も600~800度程であったとの考えもあります。弥生土器の表面調整には鉄で加工した木製道具が使用されています。例えば、鉄刃で割った木板で平行の細い筋目を残す「刷毛目」、また鉄刃で木に刻みを入れた「櫛」で描く方法、鉄刃で平行線を刻んだ叩き板で「叩き目」を入れる方法です。
弥生土器に見る美的要素と製作技術の背景には、大きな社会変動と技術革新があったと考えざるをえません。弥生土器には時間をかけて丁寧に製作されたものと、時間をかけず雑につくられたものがあります。この背景には土器の使用目的が有力者用と一般民衆用に分化し社会階層化が進んだ事が考えられます。一方、雑につくられた土器の存在は消耗品として大量生産されるだけの社会の発展があった事を想起させます。
上伊福九坪遺跡出土土器
弥生時代の各時期においても土器の様相は大きく違います。例えば、ある地域において技術的に洗練された土器が文化的先進地域である畿内では見当たらない場合があります。これは畿内では時間と労力をかけた土器づくりの段階を既に終えていたとも考えられます。
近年、弥生土器の機能を考える上で重要な新発見が相次いでいます。特に注目されるのは、山陰の青谷上寺地遺跡出土の木器群です。その中には上伊福九坪遺跡出土の底部に縦長のスリットが入った壺と酷似した一木彫りの器もあります。またスリット用と思われる独特な形をした耳かき状工具も出土しています。さらに木地に複数のコンパスのような円が見られる事から、高速回転のロクロを使用したとしか考えられない木製高杯もあります。
これは当時、恐ろしく高い木工技術を持った職人集団が山陰にいた事を物語ります。多くの遺跡では木器は土壌の関係上、腐ってしまっていて出土するのは稀です。もしかしたら祭器には特殊技能を必要とした木器が珍重され、土器はその代用品だったのかもしれません。我々は上伊福九坪遺跡の美しい土器を見ながらその奥に隠された多くの事柄を類推しなければならないのです。