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日本語日本文学科

2014.05.01

「よろしい」考 (2)|尾崎 喜光|日文エッセイ127

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第127回】2014年5月1日
【著者紹介】
尾崎 喜光(おざき よしみつ)
日本語学担当

現代日本語の話し言葉の多様性に関する社会言語学的研究。日本語の男女差、年齢差(加齢変化)、地域差(方言)、方言と共通語の使い分け、敬語行動、現在進行中の言語変化、韓国語との対照言語行動研究など。研究テーマも多様。
            
「よろしい」考 (2)

 前回の「『よろしい』考(1)」【日文エッセイ115】では、承認を求める事務書類で使われている「よろしいか」というちょっと不思議な表現について、その存在理由や敬語的意図を考えました。また、これに関連し、関西ではたとえば店員さんからお客さんに対し「これでよろしい?」のように、「よろしいです(か)?」ではなく「よろしい(か)?」が話し言葉として使われることがあることなどを紹介しました。そして最後に、岡山でしばしば聞かれる「よろしい」を含む表現について、次のように書きました。
          
 ところで、岡山では次のような表現をよく聞きます。いずれも、店員さんや駅員さんからお客さんへの言葉です。
  「一回払い(クレジットカード)でよろしいですかねえ」(ドラッグストアのレジで)
  「お一人さまでよろしいですかねえ」(JRみどりの窓口で)
 個人的に知らないお客さんに対し、「よろしいですか」に「ねえ」を付けて表現することは、首都圏などではあまりなさそうです。次回はこの表現を考えてみます。
         
 ということで、今回はこの表現について考えます。
            
表現のどこがポイントか?
 こうした表現はお客さん(=私)への確認場面で聞く機会が多いことから、実際に私がよく耳にするのは「よろしいですかねえ」という表現なのですが、ここでポイントとなるのは、相手と距離を置くことを示す丁寧語「です」と、相手と距離を縮めることをも示す終助詞「ね(え)」が一文中に"同居"することです。距離を置きつつ、しかし許される範囲で接近もするという"微妙な"表現です。しがって、「よろしい」ではなく「いい」を使った「いいですかねえ」や、「さよう」を使った「さようですかねえ」、さらには「か」を含まない「そうなるでしょうねえ」なども同類の表現ということになります。エッセイの表題がじつは羊頭狗肉になっていることについて、まず申し開きをしておきます。
          
どう調べるか?
 首都圏などでは、お客さんに対し確認するときは「~ですかねえ」ではなく「~ですか」が多いというのは、もしかしたら私の個人的な印象であり、実際はそうではないかもしれません。東京と岡山でそれぞれ100人の店員さんを対象に参与観察調査したら、かなりの精度で地域差の有無が確認できます。しかし、合計200人の店員さんに、「~ですかねえ」ないしは「~ですか」を自然な会話の中で言ってもらうというのは、時間も経費もかかるため簡単にはできません。そこで次善の方法として、身近にいる本学の学生を対象に、似たような状況での言語表現についてアンケート調査しました。比較のためには東京等の女子大学生に対しても同様に調査する必要がありますが、まだその機会を得ていないため、とりあえず岡山でどうなのかを調べました。
 いずれの表現も丁寧語「です」を使うことは必須とするため、回答者に想定させた会話の相手は「親しい先輩」としました。質問文をかいつまんで説明すると、親しい先輩にあることの相談に乗ってもらえることになり、いつだったら都合がよいかと尋ねる場面を想像させ、次の表現それぞれについて、自分で言うことがありそうかを質問しました。

   1. いつだったらいいですか?
   2. いつだったらいいですかねえ?
                
調べてみると...
 回答者は81人でしたが、言うことがありそうだと回答した人の割合は、「いいですか?」が94%、「いいですかねえ」が35%でした。「いいですか?」はいわば普通の表現ですので、ほとんどの人が言うことがありそうだと回答したのは予想どおりでした。注目された「いいですかねえ」を言うことがありそうだと回答した人は3人に1人の割合でした。この数値を高いと見るか低いと見るかは、他の地域での調査がないため何とも言えないのですが、東京などであればもっと数値が低くなるのではないかと推測しています。
               
「~ですかねえ」はどんな感じがするか?
 「いいですか?」と比べ「いいですかねえ?」はどんな感じがするかについても答えてもらいました。提示した選択肢は下のグラフの(1)~(5)です。あてはまるものすべてに○を付けてもらいました。結果はグラフのとおりです(数値は百分率)。

 (1)(2)は先輩に対する「~ですかねえ」を<距離感が小さい>と感じる回答です。このうち(1)はそれを「親しみがある」と肯定的に受け止める回答、逆に(2)はそれを「なれなれしい」と否定的に受け止める回答です。一方(3)(4)は、先輩に対する「~ですかねえ」を<距離感が大きい>と感じる回答です。(3)はそれを肯定的に受け止める回答、逆に(4)はそれを否定的に受け止める回答です。(5)はいわば"無色"の感じ方です。
 最後の(5)の数値が低いことから、「いいですか?」と比べ「いいですかねえ?」には何かしら感じるところを持つ人が非常に多いことがまず確認されます。
 (1)(2)のグループと(3)(4)のグループを比べると、数値は前者に大きく傾き、終助詞「ね(え)」を付けると距離感が小さくなると感じると人が多いことが次いで確認されます。
 注目されるのは(1)と(2)の関係です。(2)の「なれなれしい感じ」という受け止め方の方が数値的には大きいものの、(1)の「親しみのある感じ」という受け止め方も44%と少なくありません。先輩に対する「いつだったらいいですかねえ」には、私は違和感を覚え使いにくいのですが、これを使うことがあると回答した人が一定の割合いたことの背景には、これを「親しみのある感じ」と肯定的に意識する人が少なからずいたことと関係がありそうです。


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