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ノートルダムの風景

2021.11.06

遠藤周作帰天25年とノートルダム清心女子大学|キリスト教文化研究所 山根道公教授

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日本語日本文学科

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今年2021年は、国民作家として親しまれ、キリスト教作家として世界的に著名な遠藤周作の帰天25年記念の年にあたり、様々に注目されています。ここではその話題の多くが本学ノートルダム清心女子大学とも関わりのあることを紹介したいと思います。

まず、4月に遠藤周作没後25年記念出版として遠藤周作の作家としての全貌を初めて提示した『遠藤周作事典』(鼎書房)が遠藤周作学会の力を結集して刊行されました。遠藤周作学会は遠藤帰天10年の年に本学に全国の遠藤研究者が集って第1回大会を開き、発足したのが始まりでした。その学会の悲願であった事典の刊行にあたり、私は責任編者の任を担い、本学日本語日本文学科(以下日文学科)の長原しのぶ教授をはじめ、本学で遠藤の卒論を書いた日文学科卒業生3名(竹原陽子さん47期(日本語日本文学専攻 博士前期課程2015年3月修了)、井上万梨恵さん57期、川﨑友理子さん63期)が執筆者として活躍しています。

また、命日にあたる9月29日、長崎市遠藤周作文学館で没後25年の節目を記念する企画展「遠藤周作 母をめぐる旅-『沈黙』から『侍』へ」が開幕したニュースは朝日新聞等に掲載されました。この企画展は本学の日文卒業生で遠藤周作文学館学芸員の川﨑友理子さんが携わったもので、今回中心的に取り上げられた遠藤の母・郁は、岡山の笠岡生まれで、岡山県高等女学校(現・岡山県立操山高校)出身で、その後輩になる学生たちが本学で学んでいます。

さらに、10月9日には先の学芸員の川﨑さんが昨年発見した未発表小説『影に対して』を取り上げたETV特集「遠藤周作 封印された原稿」が全国放映され、川﨑さんや私の解説に加え、本学日文学科の私のゼミ生で現在、遠藤の卒論を執筆中の岡崎未宙さんが取り上げられ、本学キャンパスが撮影されました。岡崎さんはコロナ禍で就職活動など将来への不安や人生の悩みのなかで遠藤作品に惹きつけられていく内心を語っています。私は、毎年、授業で遠藤周作の作品を取り上げています。例えば「文学」では『沈黙』、「キリスト教学」では『イエスの生涯』、「キリスト教文学特講」では遠藤の生涯を追いながら様々な作品を読みます。今の学生たち皆、遠藤没後の生まれですが、岡崎さんのように遠藤作品と出会うきっかけさえあれば、その魅力にひかれていく学生は少なくありません。遠藤作品には、時代を超えて様々に悩みや苦しみを抱える読者の人生を支える文学の力があることを改めて感じることが多くあります。

また、NHKの「こころの時代」で、「2回シリーズ 遠藤周作没後25年 遺作『深い河』をたどる」が10月31日、11月7日に放映されます。『深い河』が1993年6月に刊行されたとき、作者の健康状態の良くないことを伺っていた私は、手にした小説を一気に読み終え、その作中人物一人ひとりがこれまでの遠藤文学の様々なエピソードや作中人物とつながる懐かしさを感じるとともに、現代の各世代の孤独な日本人が背負う魂の問題が描かれていて、これは現代を生きる私たちへの遺言となる作品ではないかと直感しました。そこで、作中人物一人ひとりに込められたテーマを丁寧に読み解き、「『深い河』を読む」と題した拙論の連載を、季刊誌「風(プネウマ)」に1993年9月より始めました。ちなみに「風」は、『深い河』のなかでフランスの修道院に入って西欧キリスト教との違和感を深め、日本に戻ったら「日本人の心にあう基督教を考えたい」と願う大津のモデルである井上洋治神父が、その課題を追い求めるなかで若い人たちと共に1986年に創めた「風(プネウマ)の家」の運動の一環として発行している機関誌で、私はその運動の創設からのスタッフで、「風」の創刊から編集に携わって今年で35年になります。
その拙論を読んだ遠藤周作から一通の葉書が届きました。そこには「実に丁寧に解読してくださいまして私としても嬉しく内容にも感心しております。書きがいがありました。…我々世代の人生を完了するのも、そう遠くはありません。あなたたちが是非今度は頑張ってください」とありました。若輩の私たちを励ましてくれる優しさが身に沁みてありがたく感じられると共に、「完了」の言葉に心締め付けられる思いがしました。

渡仏の船で出会い、親友となっていた井上神父が帰国して訪ねてきた時に遠藤は、日本人とキリスト教という同じ課題を井上神父も背負っていることを知り、長い時間のかかる課題ゆえに自分たちは未開の地を切り拓き、次世代の踏石になろうと決意を語り合います。それは1958年で、私はその頃、生まれた世代です。遠藤周作と井上神父が、その生涯を賭けて道を切り拓き、踏石を置きながら、前を歩いてくれたことで、その後を行く私たち日本人がどれだけキリスト教を心に響く身近なものとして実感できるようになったかと思うと感謝にたえないとともに、その志を自分たちもできるかぎり引き継いで次の世代に渡すことを使命と感じています。

本学セント・ヨゼフホール中庭で解説をする山根教授

本学セント・ヨゼフホール中庭で解説をする山根教授

今回の番組は、井上神父に共に学んだ「風の家」のメンバーで、その使命を同じくする批評家の若松英輔氏(本学の授業の特別講師として度々来学しています)と私との『深い河』をめぐる対談を軸にして、井上神父も取り上げる番組になっています。井上神父は、故、本学のシスター渡辺和子第3代学長(本学名誉学長)の招きで、学生のための講演・卒業関連行事等のために幾度も来学されていますが、「キリスト教を日本人の心で実感できるように話してくれるすばらしい神父さんがいると、遠藤さんが井上神父を紹介してくれたのよ」とシスターから伺ったことがあります。ちなみシスターは『井上洋治著作選集』の推薦人にもなっています。そうした関わりのある井上神父から本学に聖母子の石像と蔵書が寄贈されています。野のお地蔵さまのように四季のめぐる小さな中庭の草花の間に置かれて苔むしていく聖母子像は、学生たちをそっと見守っています。また、井上神父が日本人の心情でキリスト教を捉えなおす探究のために読み込んだ多くの書き込みのある蔵書は、「井上洋治文庫」としてキリスト教文化研究所の書庫に置かれています。

本学セント・ヨゼフホール中庭の聖母子の石像

本学セント・ヨゼフホール中庭の聖母子の石像

マザー・テレサゆかりの場所カリタス・ホール

マザー・テレサゆかりの場所カリタス・ホール

また、遠藤周作は『深い河』の執筆にあたって若い世代の主人公大津と美津子を、マザー・テレサの世界とつながるように描いています。マザー・テレサは1984年の来日で岡山に来た際にシスター渡辺学長が通訳を務め、学内のクビリー修道院に宿泊のために来学し、それを迎えた本学の学生たちとカリタスホールの玄関前で交流をもたれています。今回の番組のNHKの取材班は来学して、私の研究室と共にそうした井上神父とマザー・テレサに関わる本学のゆかりの場所も取材しています。

この原稿の執筆中に、先のETV特集を偶々視聴し、学生時代に友達から遠藤周作の講演に誘われた時のことを思い出したりしていると母校の校舎が映り、エンドロールにノートルダム清心女子大学とあったことで懐かしく嬉しくなっていたら、さらに偶然再放送も目にして、これは恩師渡辺和子学長が「手紙を書きなさい」と天国からおっしゃっているものと確信してしたためたという卒業生の方からの手紙が届きました。なんと在学中に「マザー・テレサの話を直接聞き、握手までしていただいた」とあり、現在、試練の中にあって今回の番組が救いとなり、大学で学んだ大切なことをたくさん思い出したという感謝の気持ちが綴られている手紙でした。

遠藤周作帰天25年と本学とが見えないところで深くつながっていることを感じないではいられません。

拙著『遠藤周作と井上洋治ー日本に根づくキリスト教を求めた同志』を持って

拙著『遠藤周作と井上洋治ー日本に根づくキリスト教を求めた同志』を持って

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