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日本語日本文学科

2009.03.02

詩がもたらす発想の逆転|田中 宏幸|日文エッセイ65

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日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第65回】2009年3月2日

詩がもたらす発想の逆転
著者紹介
田中 宏幸(たなか ひろゆき)
国語科教育担当
国語科教育法や作文教育史を研究しています。
※教員情報は、掲載時のものです。

まず、倉敷市立庄中学校1年生が岡山弁で書いた2編の詩を読んでみてください。(2008年6月の公開授業で生まれた詩です。)(注1)

〈A〉女子生徒の作品
どうせうちやこ、
背は低いし、
スポーツできないし、
背が低いので、
ほかの人にくらべて、
大またで走らないといけないし、
背が低いと不便なことばかりだ。
じゃけど、
頭だけはかしこいし、
いつもテストは百点で、
悪いことなんてひとつもない。
とにかく体なんて、
関係ない!
て言うたりして。

〈B〉男子生徒の作品
どうせおれなんて、
口はわりぃーし、
目は猫みてぇーじゃし、
お金ねーし、
いっつも、腹減ってるし、
いっつも、ねみぃーし、
いっつも、不安じゃし。
じゃけど、
お金がないけん、不良にカツアゲされんし、
口が悪くて、目が猫じゃけん、猫としゃべれるし、
まんぷくになってねてるおれを想ぞうするとたのしぃし、
友だちのありがたみがわかってステキじゃもん、
なーんちゃって。

いずれも、実にユーモラスで、たくましい詩だとお思いになりませんか。
「どうせ」と投げやりな調子で自分の短所を並べ立て、「じゃけど(だけど)」と逆転させます。発想を転じるとこんな良いところがあるのだ、と強弁していくわけです。だれかが、「そんな馬鹿な」とからかってきたら、だから「『~て言うたりして(なんてね)』と結んでいるでしょ」と開き直ってやればよいのです。嘘でよいから、思いきってホラを吹き、茶化してオチをつける。こんな詩の作り方もあるのです。

これは、NHK『課外授業ようこそ先輩』(平成18年9月)で、詩人伊奈かっぺい氏が弘前市立大成小学校6年生を指導した手法を、応用してみたものです。(注2)

伊奈氏は、詩を書かせる前に、言葉遊びを重ねています。

(1)「『ん』で終わるしりとり」(「ん」で終わる言葉を、「ん」の直前の音でつないでいきます。例:きりん→リンカーン→かみん→みかん→かびん→びんせん)

(2)「名前で遊ぼう」(「アナグラム」と呼ばれる言葉遊びです。例:なかにしゆうと→灯油流しに。くどうなつみ→ドーナツ組。)

(3)「調子の良い詩(うた)」(音韻を楽しみます。例:くどうさんがいとうさんのどうぐをつかって、どうでさとうさんとどうぐをつくって、いとうさんにどうといった。)

(4)「小作文『かわいそうな○○』」(校内にあるモノを、思いやりの目でみて作文に書きます。例:かわいそうなカーテン。かわいそうな机。)

こうして言葉の感覚を柔軟にした上で、津軽弁で「かわいそうな自分の短所」という詩を書かせたのです。

この創作詩法のポイントは、三つあります。
一つは、「どうせ」「だけど」「なんてね」の三語を使うように求めている点です。これらが、逆転の発想とユーモアのセンスを引き出すキーワードになっています。

二つめは、方言を用いている点です。生活に根ざした言葉だからこそ、心が開かれ、本音を語ることができるのです。

三つめは、自己肯定感を導き出している点です。思春期前期にある子どもたちは、自分と他者とを比べ、自己を卑下しがちです。そのマイナス思考を転じ、自分の良さを発見させる契機とするのです。

この方法をさらに発展させ、「どうせ」で始める第一連を本人が語り、「だけど」以下を隣人が語るという形に変えていくと、魅力的な「他己紹介」になります。本人が卑下していることでも、他者からみると素敵だよというメッセージを送ることになるからです。

このように言葉というものは、伝達や思考だけでなく、認識や想像(創造)の機能も有していることがよく分かります。さらに、心を通わせ励まし合うという重要な働きもあるのです。とりわけ詩の言葉には、常識的・日常的なものの見方を変えていく力があると言えるでしょう。

文部科学省が発表した新しい「中学校学習指導要領国語」(平成20年3月改訂)では、「表現の仕方を工夫して、詩歌を作ったり物語などを書いたりすること」が、2年生の言語活動例として明記されました。これまでは論理的な文章ばかりが強調されてきましたので、バランスのとれたものとなったと言えます。その際、このように具体的な手引き(発想を導くキーワード)が示されると、どの生徒も楽しんで書けるようになるでしょう。指導者の工夫によって、創作活動が活性化することを願ってやみません。

(注1)
本公開授業は、岡山県教育庁指導課「授業改革支援事業」の一環として、倉敷市立庄中学校1年生27名を対象に、田中が行ったものです。

(注2)
児玉忠「児童詩教育とユーモア」『小田迪夫先生古稀記念論文集』(大阪国語教育研究会、2008)を参考にしました。

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