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日本語日本文学科

2009.06.01

坪田譲治とあまんきみこ|山根 知子|日文エッセイ68

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第68回】2009年6月1日

坪田譲治とあまんきみこ
著者紹介
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当
宮沢賢治・坪田譲治を中心に、明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。

岡山市出身の作家坪田譲治(明治23年~昭和57年 享年92歳)は、ひな祭りの日に生まれて七夕の日に亡くなりました。いかにも子供を生き生きと描いた作家らしい一生です。来年の2010年3月3日には、坪田譲治はいよいよ生誕120年を迎えます。そこで本学では、坪田譲治生誕120年を記念する企画を、この2009年度を通して展開してゆきます。

まず、7月7日の坪田譲治忌にあわせて、本学がこれまで収集してきた坪田譲治の直筆原稿や初版本を「坪田譲治コレクション」として附属図書館のなかに開設し、展示も含む運用を開始する予定です。また、生誕120年記念行事の開催を、生誕日に近い2010年3月13日(土)に設定しています。これは、岡山市坪田譲治文学賞を制定している岡山市との共催によって、本学のカリタスホールにて実現することになりました(詳細は日が近づきましたら本学ホームページにてご覧いただけます)。

その日のプログラムでは、昨年度の一年間、ラジオドラマ『坪田譲治 童話の風景』をオンエアーしてきた学生たちによる朗読劇も計画しており、講演者としては、あまんきみこさんをお招きすることになりました。

あまんきみこさんは、坪田譲治生誕120年においてお話を伺うに最もふさわしい作家であると思われます。が、坪田譲治とあまんきみこさんとのお二人の関係については、ご存知ない方が多いのではないでしょうか。

坪田譲治は、モモちゃんシリーズの松谷みよ子さんや、ぼくは王さまシリーズの寺村輝夫さん等、多くの現代児童文学作家を育てたことでも特筆に値する作家です。そこに名を連ねるお一人が、あまんきみこさんなのです。

あまんきみこさんといえば、多くの方が小学校の教科書に載っていた作品を思い出すのではないでしょうか。三年生の教科書では「ちいちゃんのかげおくり」(昭和61年より採録)、四年生では「白いぼうし」(昭和46年より採録)がよく掲載されています。

そのあまんきみこさんが初めて童話を書いて活字にしたのは、坪田譲治の主宰する童話雑誌『びわの実学校』の誌上でした。それからおよそ20作品が、次々とこの雑誌に掲載されてゆきます。これらのうち、前述のタクシーの運転手、松井さんを主人公とした作品「白いぼうし」も、この『びわの実学校』に載せた6作品目にあたります。こうして『びわの実学校』に掲載して書きためられていった作品を中心に、処女童話集『車のいろは空のいろ』(昭和43年)が編まれ出版されたのでした。この童話集は、日本児童文学者協会第一回新人賞を受賞するなど高い評価を受け、あまんきみこさんのそれからの作家活動を強く押し進めることになりました。

このように、あまんきみこさんが童話作家となる出発点において、坪田譲治が後進を育てようとして配備したチャンスを十全に生かして羽ばたいていったことは間違いありません。しかし、私にはあまんさんに伺いたいことがいろいろとあります。例えば坪田譲治自身は、恩師鈴木三重吉には文章や構成を細かく添削してもらうことで童話作家として成長したという思い出をもちながらも、自分の後進たちには、内容や文章に関わる細かいアドバイスはしなかったという点です。あまんきみこさんが本学にご講演にお越しになるときには、そのあたりの様子もぜひお聞きしてみたいと思っています。

その点に関して、あまんきみこさんの文章から、坪田譲治からのアドバイスとして「あなたは、この本の主人公の松井さんをだいじになさい。松井さんのことなら、まだまだ書けるでしょう。書ける時は、書くことです。たとえ『松井さんのことしか書けない』と誰かにいわれても、そんな言葉を気にしてはいけませんよ」と言われたということを知ることができました。

この坪田譲治の言葉は自身の体験から発せられています。それは、譲治が「善太三平もの」といわれる作品によって作家として認められるようになり、目を瞑れば善太と三平が動きだしていくらでも書けるという時期があったのに、あるとき評論家から善太三平ものしか書けないと言われたのが悔しくて、他のものを書くようにしたところ、気がついてみれば、善太と三平が心の中から消えていたという体験でした。あまんきみこさんは、このアドバイスを心にとめて、松井さんの登場する作品を書き続け、『続・車のいろは空のいろ』を出版したのでした。

画像は、坪田譲治自筆の色紙(本学附属図書館所蔵)。

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