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日本語日本文学科

2006.12.01

心型四葉「清心日文」刻印秘話|佐野 榮輝|日文エッセイ38

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日本語日本文学科

日文エッセイ

佐野 榮輝 (書道担当)
書の実技・理論を通して多様な文字表現を追求しています。

 本年度から学科ホームページに採用されている自刻の心型四葉「清心日文」印【図1】は今年の三月に刻したもの。四角い印材を想定して幾度となく二行での印稿を素描し、一行目を「清心」、二行目を「日文」として試みていたが意に添わず、学科名改称以来六年間、気ままに稿を温めていたのだが、この度、着想を転換してようやく重い腰を上げた。

【図1】心型四葉「清心日文」印影(2.3×2.3cm)、印面と側款

【図1】心型四葉「清心日文」印影(2.3×2.3cm)、印面と側款

 毎年三月半ばともなれば、いよいよ新年度の入学生が確定していく時期に当たる。連日、入試広報部と連絡を取りつつ、受け入れ側として入学者数の予測をしなければならない。そして入学オリエンテーションの新三・四年ヘルパーたちは学科の栞【図2】の作成を開始していく。四月の入学宣誓式を目前に控え、あまり時間の猶予はない。
「それぞれの用紙と糸を何冊分用意いたしましょうか」
ヘルパーの問いに答えが詰まる。過不足があってはならないし、できるだけボランティアの彼女たちの労力は少なくしたい。苦悶の日々は続く。
 この栞で書道担当教員として何より特記したいのは、内容の充実は言うまでもなく、日文では表紙を飾る題箋はすべて三年次の書道履修生による手書きであり、それに捺される落款印(らっかんいん。落款は作品に署名すること。署名の替わりに捺印だけで済ますこともある)は三年後期の「篆刻法」の実習で刻した印を実押したものであることが一つ。
 二つめは、表紙に背帯の和紙と題箋を貼り、ヘルパーたちの手作業によって、康煕綴(こうきとじ)という糸綴じで製本したものであること。中身は同じでも、外見は題箋・表紙の背帯の色と文様の組み合わせなど、それこそ千変万化、一冊一冊どれ一つとして同じものはないという、新入学生への想いを込めた手作り感溢れる先輩からの贈り物として、その伝統が引き継がれている。
 私自身、赴任二年目から二年間、学科オリエンテーション委員として携わった後も、ここ数年、印刷を初め、題箋の揮毫・背帯の貼り付け・綴じ方などの指導に関わって来た。

【図2】学科オリエンテー ション栞。裏面に印。

【図2】学科オリエンテー ション栞。裏面に印。

 その栞の裏表紙の余白部分に学科の徽章にでもと思い立ったのが、重い腰を上げるきっかけであった。
 学科ホームページ担当委員には「清心日文を十字を切るように象ったもの」と簡明なる名解説をしていただいた。クロスを切るように字配りしてある。さらにはこの印影をヘルパーたちのウエアーにプリントして胸に当て、十字を切るように読む場合をも意図していたのだが、次年度以降への課題となった。十字に構想できたのは、そのための要素が強く働いた結果である。
 冒頭、着想を転換してと記したが、十字に字配りして、これは印になるなと直感した。「清」字の右旁が繁画であるのに対して、「心」字の重心を左に振り、その変化に呼応させて、あとは左右に「日文」二字を配すればよかろう。そうなると、さて印全体をどのようにまとめるか。改めて印譜を渉猟してみる。
 中国の秦以前、ほぼ戦国時代の古璽(璽字については諸説あるが、これに言及するとパソコンが文字化けするので、今は触れない)は、定型化が少なく発想が豊かで、いわゆる変型印が多種多様に見受けられる。
 その中からハート型の「得志」璽【図3】を原型に見据える。さらにそれを四つに合しても正方形の印材に入って、天地を四十五度傾ければ印面を最も有効に使えそうだ。

【図3】「得志」印影二種(各1.1×0.9cm)羅福頤主 編『古璽彙編』吉語璽九より

【図3】「得志」印影二種(各1.1×0.9cm)羅福頤主 編『古璽彙編』吉語璽九より

 見つけた人には幸運が訪れるという四つ葉のクローバに見立てれば、四字の調和と印面の統一が図れるであろう。ハート型のラインに添って文字の筆画を伸縮させ、「日」字は窮屈にならないよう円形と曲線に。いよいよアーデモナイ、コーデモナイ、アーシテミタラ…、コーシテミタラ…と試行錯誤を繰り返すスケッチから、全体と線描の細部を表現す
る本格的な印稿へ。だんだん可能性が狭まりイメージが微調整段階。だが、ドノヨウニ立体感ヲ出ソウ……。
 私の場合だが、煮詰まり状態になると、夢に「印」が立つ、印が夢の中に見えることがあるのだ。きっとレム睡眠時に脳の中に残像している印稿が別の印象で見えるのであろう。覚醒時にあんなに試行錯誤したにも拘わらず、睡眠中の瞬時、その時間の単位はわからないが、新しい発想が立つことがしばしば起こる。そんな時は家人にはにんまりと「天からのお告げがあったよ」とささやく。
 この印が天の啓示かどうか。「夢、幻(まぼろし)の如く」で記憶に定かではないが、おそらくあったに違いない。
 四葉は密着させずにやや離し、それにともなって、外枠は重く、内は軽くして破砕させ、中心から発散する光に神々しさと、ハート型の外格の曲線を二つのS 字が交差・展開してジェットコースターが果てしなく中空をめぐるように、永遠の輪廻流転(りんねるてん)とを象徴せよ……と。
 内緒話を吐露してしまった以上、もはや「秘話」とは大袈裟か。このような印は今まで無かったので、心型四葉は仮に名付けた。


図1に新たに加えた側款は「心型四葉清心日文印。心型古 有りと雖も、而れども未だ嘗て、合して四葉と為す者を見ざる也。丙戌三月、雲石刻」と刻しています。

印は佐野が平成29年3月退職の折、学科に寄贈致しました。
(2019年12月20日再稿)
 

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