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日本語日本文学科

2012.08.01

実践の重みが支える教育の不易と流行―「三時の会」を通して―| 大滝 一登|日文エッセイ106

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日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第106回】2012年8月1日

実践の重みが支える教育の不易と流行―「三時の会」を通して―
著者紹介
大滝 一登(おおたき かずのり)
国語科教育担当
国語科カリキュラムや学習評価を中心に、国語科教育について理論と実践を通して研究しています。

学校教育には「不易」と「流行」があるとよく言われる。
人を育てる教師には、単なる理論知だけでなく、生徒に接して培われる経験知の積み重ねが求められる。ベテラン教師には熟達した「職人」としての風格さえ漂ってくるが、彼らに限らず一人前の教師になるためには、いつの時代も変わらず大切にしなければならないことがある。教育への情熱を根底とした指導の基本姿勢、生徒を惹きつけることのできる人間的な魅力、発問の的確さや授業展開の安定感といった長年の経験を通して養われる授業の実践知など。先達からの教えと自身の努力によっ
て高められた教師の力量には普遍的な確かさがあり、これらはいわば教育の「不易」の一面だと言えるだろう。

一方、「流行」の最たる例としては学習指導要領の改訂を挙げることができる。数年前に学習指導要領が変わったため、中学校では今年度から新しい教科書を使った授業が始まっている。高等学校では1年遅れて、来年度の一年生から新しい教育課程による授業が始まる予定だ。学習指導要領の改訂期にはその周知徹底のため、国や教育委員会等による説明会や研修会が実施され、改訂のポイントが説明されたり趣旨に沿った指導事例案が交流されたりするのが通例である。そこでは新しい教育の流れ、いわば「流行」への対処を迫られる教師たちのスタンスが試されることになる。

当然のことだが、学習指導要領や教科書が変わっただけで即座に教室での学習指導が変わるわけではない。重要なのは、実際に日々の実践を行う教師の意識がいかに変わるかであろう。新しい知識を行動に結びつけるのは、紛れもなく意識や意欲の役割だからである。概して、若手は「流行」へのアンテナは敏感だが「不易」の確かさを体現するには至らず、ベテランは「不易」の重みに到達しているものの「流行」への対応力は徐々に乏しくなりがちだ。しかし、ドナルド・ショーンの「反省的実践家」の議論を持ち出すまでもなく、行為は意識によるモニターを通してこそ変容していく。どんなに優れた実践であろうと、教育が時代の影響を受ける子どもを相手とする以上、ルーチンワークと堕してはならない。

話は変わるが、本学では、筆者の前任者(田中宏幸氏、現広島大学大学院教授)の時代から続く国語教育研究会(ノートルダム清心女子大学日本語日本文学会国語教育部会)がある。学会の部会としての活動であることから、本学卒業生・在学生のみならず実践の場でご活躍の中・高等学校の先生方にも広く参加していただいている。年間5回程度いずれも土曜日に開催しているが、私立学校等の先生方にも参加していただけるよう午後3時から始めたところ「三時の会」という通称で親しまれ、早いもので今年の7月で通算84回を数える。顔ぶれは異なるが、毎回20数人程度の方が集まり、おおむね2本の実践発表を軸に協議を行っている。自主的な研究会であるため、参加者の意識は非常に高い。それぞれ忙しい業務を抱えながらも、1年目の若手から定年退職間近のベテランまでが一堂に会し、同じ土俵で教育論議を戦わせるさまは見応えがあり、世話人である筆者も心地良いパワーをいただいている。

このたび、縁あってこの「三時の会」で発表された10の実践を田中氏とともにまとめて出版する機会を得た。全国レベルの研究会で発表された実践も多く、いずれも新学習指導要領で重視されている「言語活動の充実」の趣旨に沿った、創意工夫に満ちたものである。誰もが一朝一夕に真似できるわけではないが、新しい授業づくりの参考となるに違いない。ぜひ手にとってご一読いただきたい。
もっとも、誤解のないように付言しておくが、これらは単なる「流行」の実践群ではない。執筆していただいたどの教師も「不易」の大切さを熟知なさった方ばかりである。指導の高みを目指す教師の反省的実践の積み重ねによってこそ「不易」と「流行」の絶妙なバランスが成就することを、「三時の会」での先生方との出会いは教えてくれている。

画像は、『中学校・高等学校 言語活動を軸とした国語授業の改革10のキーワード』(三省堂)表紙

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