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日本語日本文学科

2012.09.03

チャラ字・チャラ書き|佐野 榮輝|日文エッセイ107

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日本語日本文学科

日文エッセイ

佐野 榮輝 (書道担当)
書の実技・理論を通して多様な文字表現を追求しています。
 
 本学赴任以来、岡山在住19年目を迎えています。
 岡山に住んでいても、私自身の生活の中では「岡山弁」はかなり遠い存在です。その一つには、地元の人たちの「他所者」への暖かい配慮が感じられます。以前、隣の提灯屋のご主人は「おえん、どうにもおえん」が口癖でしたが、「だめだ、どうしたってだめだ」の意味だろうなと、話の経過や身振り、口調などから察することができました。
 娘が小三で転校してきて、書写の時間に聞いたという「ウッタテ」については2006年1月のエッセイ3巡目に「ウッタテ考」として記しました。それと同等の衝撃を19年目にして初めて目にしたので、ぜひ、留めておこうと思います。
 隔年開講する科目で「書論・鑑賞法」があります。現在では多くの作家たちの書作風景がビデオで見られるようになったこともあり、また自分は全く学生に鑑賞させられるような「文房四宝(筆墨硯紙)」を所蔵していないので、それらをビデオ鑑賞してレポートを課しています。以前は400字詰め原稿用紙3枚分をワープロ原稿としていたのですが、本年は2枚800字(正確には題・氏名で2行減る)で、万年筆かボールペンによる手書きに変えました。
手書きの文字は、書者の心理状況がよく分かります。
 たった2枚なのに最初と最後の書きぶりが異なるものもあります。パソコンではすぐさま漢字変換できる言葉も、辞書に当たらなければならなくなります。最初はパソコンで作文したとしても、それを改めて手書きすることによって、筆記具と紙との摩擦感が思考を変容させることもあるかもしれません。学生たちにとっては、はなはだ迷惑な課題だったでしょうが、「手書き」することによって、その事の重大さを改めて感じています。
 先ず、原稿用紙の書き方から始めなければなりません。
 「、」や「。」のマスの位置、句点「。」は左下から書き始めて時計回りは小一で既修であること。短文は、同語の反復を極力避けること、同語は別語にできないか、指示語「それ・そのような」の明確性はあるか、段落の分け方に自分の意志はあるのか。下書き→再校(校正)→定稿(完成稿)の過程をたどっているか。
 正確に書法用語を用いているか、などなど最初数回は指摘例に事欠きません。
 そのレポート中に19年間にして、二度目に出遇ったショッキングな語が「チャラ字」でした。「草書は、小学生の私にとってはチャラ字と大差なかった」の一文に仰天。
 早速、学生たちに尋ねたところ、チャラ字は「チャラ書き」ともいい、メモ書き、走り書き、殴り書き、速書き、ちゃらちゃらと書いた字、汚い字、いい加減な字、自分しか読めない字などと回答がありました。
 辞典を引いてみると「ちゃら」や「ちゃらんぽらん」などは江戸時代にすでに用いられていますが、文字についての言及は見当たりません。
 学習指導要領の「文字の形に注意しながら、丁寧に書くこと」(小一・二)の正反対の概念ですが、「チャラ書きするな、チャラ字を書くな」と指導されたと言うのも効果的かも知れません。
以前は、「乱筆にて失礼いたします」「取り急ぎ乱筆の段、どうぞ悪しからずお許しください」「生来の悪筆、幾重にもお詫び申し上げます」「拙筆の上に急ぎましたので......」などは書簡末文の常套句で、文字のぞんざいなことをわびるという謙譲の意の語でしたが、現今の電子文字によるメールでは、「乱筆」「悪筆」「拙筆」などの語は使えません。
 逆に、手書きする機会が少なくなったことによって、チャラ字・チャラ書きが繁茂するかもしれません。
 「チャラ書きなので、講義ノートは見せられない」という学生の用例もありましたから。
最近たまたま、毎日新聞埼玉県版のコラム「記者日記」(2012.2.23)の再録版を読み、冒頭「記者の字は自分でもうんざりするほどの汚さだ。速さと正確さが大事の聞き書き稼業。きれいは二の次の記者の勲章さ、と自らを慰めている」という、その心意気もまた佳しとすべきですね。
 「チャラ字という言葉を知っているか」というアンケートをした受講生18名中、岡山県出身者11名は全員、香川県、広島県東部各2名は地域的な広がりを見せますが、計15名は「知っていた」。愛媛県・福岡県各1名は「岡山に来て初めて知った」。京都府1名「知らない」でした。

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