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人間生活学科

2017.09.12

もしコロンブスがいなかったら?|清水純一|生活文化学研究室

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人間生活学科

学科ダイアリー

時々、もしコロンブスがいなくて、アメリカ新大陸が「発見」されていなかったら、今の私たちの食生活はどうなっているのだろうかと夢想することがあります。もちろん、コロンブスがいなくても必ず他の誰かが「発見」していたに違いありませんが。

 現在、我々が普通に食べているものでアメリカ大陸原産のものは以下のように、たくさんあります。

主たる新大陸起源の作物

穀類

トウモロコシ

野菜
トマト、カボチャ、インゲン豆、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ

果物
パイナップル、アボカド

ナッツ類
ピーナッツ、カシューナッツ

その他
カカオ(ココア、チョコレートの原料)、トウガラシ、バニラ

ここですべてを紹介することはできませんので、以下、現在の我々の食生活に欠かせない重要なトウモロコシと個人的に私の好物であるトマトに焦点を当てて、紹介していきたいと思います。

トウモロコシ
 イネ科で原産地は南米アンデス山麓地帯と言われています。コメ、小麦と並んで世界の3大穀物と呼ばれており、その中で生産量が最も多く、米国、ブラジル、アルゼンチンの南北アメリカ諸国が主要な輸出国になっています。

 同じ3大穀物といっても、トウモロコシがコメや小麦と異なるのは、消費の用途でみると、家畜のエサである飼料の割合が大きいことです。世界の全消費量(2015/16年度)9.8億トンの内、飼料用消費量は6億トンで約6割を占めています。経済成長に伴い、一般に食肉の消費は伸びていきます。世界の食肉消費量の増加を支えているのは、実はトウモロコシの生産増加です。平均の日本的な畜産技術ですと、食肉1kgを生産するために必要なトウモロコシは、牛肉11kg、豚肉7kg、鶏肉4kgです。肉を食べるということは、間接的にトウモロコシを食べていることに等しいのです。その意味で、肉は効率の悪い食べ物とも言えます。

 食品工業用の用途としては、コーン油、コーンスターチ、異性化糖の原料となります。工業の用途として近年注目を浴びているのがバイオエタノールです。世界最大の生産国である米国では全需要量のうち、約4割がエタノール向けです。これは米国環境庁がガソリン供給の一定割合をエタノール燃料として義務付ける「再生可能燃料基準」を定めているためです。

 余談になりますが、トウモロコシは米国やカナダではコーン(corn)、英国ではメイズ(maize)と呼ばれています。コーンは本来、穀物一般、あるいはその土地で主要な食べ物を指すので土地土地でコーンが意味する作物が異なる場合があります。例えば、イギリスのイングランドでは小麦、スコットランドではエン麦(オート麦)を意味し、ドイツではコーン(Korn)はライ麦を意味します。誤解を与えないようにするにはメイズの方が無難かもしれません。国連の専門機関である国連食糧農業機関(FAO)でもトウモロコシの標記はメイズになっています。

トマト
 私の大好物です。ナス科で、原産地はペルーのアンデス山脈の太平洋側高地ですが、栽培はメキシコで始まりました。16世紀にスペイン人がヨーロッパに持ち帰りました。しかし、赤い色が当初は有毒だと思われ、観賞用として栽培されていたそうです。ヨーロッパでトマトを最初に食用にしたのはイタリア南部です。トマトソースとパスタが良く合うことに気づき、17世紀末にパスタ料理が大流行します。これは、トマトとパスタの「幸福な結婚」と呼ばれています。

 ちなみに、当時はパスタはまだ手で食べていました。熱々のパスタを指でつまみ上げて、上を向いた口に落として食べていたのです。すでにフォークは発明されていましたが、肉塊を指すためのもので、2本歯でした。そこで、当時のミラノ国王フェルディナンド2世のために、部下の式部官が、パスタが食べやすいように歯と歯の間隔が狭い、4本歯のフォークを発明したのです。このフォークはパスタ以外のものを食べるのにも便利だったので、ヨーロッパ全土に広まっていきます。これは新たな食べ物が食器の開発につながるという興味深い例と思います。

 このように、ヨーロッパでも食事用のフォークが普及するのは18世紀で、それまでは王侯貴族でも手で食べていた(手食)だったのです。現在、地球上には約74億の人類が生活しており、それぞれの民族により独特な食べ方があります。食べるときに用いる食具により、次の3つの文化圏を形成しています。

①手食文化圏:東南アジア、オセアニア、西アジア、インド、アフリカ、中南米の原住民。
 人口の約44%。

②箸食文化圏:中国、韓国、日本、台湾、べ卜ナム。
 人口の約28%。

③ナイフ・フォーク・スプーン食文化圏:ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、ロシアなど。
 人口の約28%。

 皆さんは意外に思うかもしれませんが、今日でも手食の民族が世界で一番多いのです。


 話は戻りますが、もう一つ、イタリアの人気パスタ料理にペペロンチーノがあります。これはニンニクとトウガラシを効かせたオリーブ油にパスタを絡ませた料理ですが、ペペロンチーノとはトウガラシという意味です。トウガラシも最初に紹介したように、アメリカ大陸原産で、コランブスがヨーロッパに紹介した物ですので、もう一つの「幸福な結婚」と言えるのではないでしょうか。

 このように、アメリカ大陸原産の作物は現在の世界の食生活を豊かなものにしています。機会があれば、今回取り上げたもの以外も紹介したいと思います。

 蛇足です。私はウィスキーを飲む時にカシューナッツをつまみにすることがあるのですが、初めてブラジルへ行った時、このナッツがなっている姿を見て、びっくりしました。恥ずかしながら、ピーナッツのように土の中でできるのだと勝手に思い込んでいたのです。その姿は木にピーマンがなっていて、その先にカシューナッツが刺さっているようにしか見えませんでした。このピーマンのような果肉は英語でカシューアップルと呼ばれ、ブラジルではこの果肉を絞ったジュースが人気です。ブラジルの原住民はこれをウカジューと呼んでいたのを、ポルトガル人がカジュー(caju)と聞き取ってしまい、それが英語でなまってカシューになったと言われています。

(写真:カシューの木)

(写真:カシューの木)

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