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現代社会学科

2015.07.24

女性の"たしなみ"とは?その本質とは?:学科の紹介【14】

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現代社会学科

学科ダイアリー

女性の"たしなみ"とは?その本質とは?―武士編

藤實久美子 教授
 
 現代社会学科のブログ「婚活とマンガとジェンダー研究」(山下美紀教授)を読みながら、「そもそも魅力ある女性ってどのような人だろうか。はてさて...」と、私は、しばしの間、考えた。

 「魅力ある女性とは...」。これは難問である。また、歴史的な事柄を道徳的・現代風に解釈して教訓を垂れる。このような姿勢は現代歴史学ではまず承認されない。

 したがって、歴史をいくら探っても、この設問の答えを見つけることはできないだろう。けれども、明治生まれの女性の体験や彼女たちが祖母から聞いた話のなかに、武士の女性の"たしなみ"を探し求めてみてもよいのではなかろうか。

 "A Daughter of the Samurai" は、杉本鉞子(すぎもと・えつこ)が英語で著述し、アメリカでベストセラーとなり、7ヶ国語に翻訳された著作である。現在、大岩美代が訳した『武士の娘』(筑摩書房、1967年、のち筑摩文庫、1994年ほか)があり、日本語で読むことができる。

 著者の鉞子は、明治6年(1873)に越後国長岡藩家老・稲垣茂光の6女として生まれた。12歳で兄の友人・杉本松雄と婚約し、24歳のときシンシナティで日本骨董店を営んでいた杉本松雄と結婚するために、渡米した。1950年没。

 さて、『武士の娘』によれば武士の女性の"たしなみ"は次のようである。

 習字。これは「心を制御するために学んだ」(p.18)という。長刀(なぎなた)は「武士の娘が身を護る用にも、武芸のたしなみとしても習ったものでした」(p.77)。華道・茶道、作法、裁縫―蒲団縫いは大変だった―・機織・料理など家事全般(p.20、p.67)。華道は「お花なども自分で選び、床の間の掛け軸や置物もひとりでととのえ、家の中の習慣(しきたり)通り整えるのでありました」(p.67)とあり、家を整えるために必要であった。

写真1 『小学女礼式』西村敬守・著、暢盛社、1882年刊(国立国会図書館所蔵)

写真1 『小学女礼式』西村敬守・著、暢盛社、1882年刊(国立国会図書館所蔵)

 作法は、歩き方や座り方、襖の開け方・閉め方ばかりでなく、寝姿にまで及んだ。すなわち、「きの字に体を曲げて眠るのでした」(p.20)とあり、就寝時は右肩を下にして膝を折り曲げていたらしい。「武士の娘は眠っている時でさえも、身も心もひきしめていなければならないと教えられ」(p.20)、「女の子は必ず穏やかな中にも威厳をそなえたきの字なりにさせられました。これが制御の精神を意味したものとされておりました」(p.20)。

写真2 同上(国立国会図書館所蔵)

写真2 同上(国立国会図書館所蔵)

 "たしなみ"の意味には少なくとも二つある。①諸道の心得、②平常の心がけ、である。①と②は無関係ではなく、本質でつながっている。「心の制御」「制御の精神」は、武士の娘・鉞子に施された教育の本質であった。そのため、心構えとしては「武士の娘はまつげを濡らしてはならない」ことになる。

 しかし鉞子は、当然ながら、しばしば涙を流している。心構えと実生活・実社会は違う。これは、テキスト解読をするにあたり、念頭においておかなければならない点である。

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