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日本語日本文学科

2015.05.01

文学創作を志す人々へ -坪田譲治コレクション5周年を記念して-|山根 知子|日文エッセイ139

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日本語日本文学科

日文エッセイ

日本語日本文学科 リレーエッセイ
【第139回】 2015年5月1日
【著者紹介】
山根 知子(やまね ともこ)
近代文学担当

宮沢賢治・坪田譲治を中心に、明治・大正の小説や詩および児童文学を研究しています。
 
 本学における文学創作講座
 本学では、坪田譲治(1890-1982年)の誕生日3月3日に近い日曜日である3月1日に、文学講座「聞いて語って書いてみる-坪田譲治の生きたまちから-」を開催しました。これは、本学坪田譲治コレクション5周年と岡山市文学賞30周年を記念した文学創作をテーマとした講座で、坪田譲治文学賞の選考委員である作家森詠氏と評論家川村湊氏の講演と、そのお二方による創作のワークショップを行いました。その前座では、本学日本語日本文学科の在学生と卒業生による、坪田譲治作品と坪田譲治文学賞を受賞した作品の朗読の場を設定しました。
 この朗読をしたメンバーは、在学生としては日本語日本文学科の授業「文学創作論」の受講者で、卒業生としては卒業生による朗読会「もものみ文庫」のメンバーでした。さらに卒業生による創作研究会「水鏡会(みかがみかい)」も、朗読箇所の選定から舞台設定まで活躍してくれました。これらのメンバーは半年前から準備や練習を始め、当日には朗読した6作品の魅力を伝えることのできる舞台となりました。なかでも、講演者の森詠氏が第10回坪田譲治文学賞を受賞した作品『オサムの朝(あした)』を朗読した際には、客席におられる作者本人を目の前にしての朗読となり、森氏より「目を閉じて聞いていると作中の風景が鮮明に広がり、大きな感動を覚えました」とのお言葉をいただき、朗読者とともに感激に浸りました。

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日本語日本文学科(ブログ)

松谷みよ子と坪田譲治
 ところで、前日の2月28日には、会場となる本学ヨセフホールでリハーサルを行っており、あとで知ったことですが、この日譲治の弟子である松谷みよ子さんが89歳でお亡くなりになったとのことには驚きました。
 思い返すと、松谷みよ子さんには2003年に本学にお越しいただき、「坪田譲治から松谷みよ子へ~受け継がれる文学世界~」と題して講演会を行っていただきました。その時も学生たちが、譲治作品とともに松谷さんの作品「モモちゃんがうまれたとき」「ジャムねこさん」の朗読を、当時77歳であった松谷さんに心をこめて捧げたことを思い出します。松谷さんが優れた児童文学作家として活躍された足どりは、戦後、20歳の時、初めて譲治を訪ね、その後自作への評価の言葉を受けるようになったことから始まっています。その後、譲治が若手作家の発表の場とするため雑誌『びわの実学校』を自費で創刊して以来、松谷さんはそこに作品を投稿しながら世に認められるようになり、この雑誌の編集においても活躍し、さらに譲治没後は、譲治の文学情熱を引き継ぎ、新たな書き手に舞台を提供する『びわの実ノート』の発行人となるなど、譲治の使命を自らのものとしていく作家人生を歩まれました。また、松谷さんのモモちゃんシリーズは離婚が描かれるなど児童文学のタブー崩壊の先駆けとなったと言われますが、それは譲治の「子供に現実の世界を見せたい」(「私の童話観」)という望みを引き継いだ要素といえるでしょう。

 坪田譲治コレクション-逆境から生まれた創作世界-
 さて、本学附属図書館の坪田譲治コレクションは、譲治の七夕忌である2009年7月7日に開設し、同年度の2010年の譲治生誕120年周年記念で、譲治のもう一人の弟子にあたるあまんきみこさ
んに本学で講演(リレーエッセイ68・79回参照)をしていただいた際にも、コレクション展示の一般公開をしました。このコレクションは、譲治の自筆原稿、書簡、色紙、写真、初出雑誌、初版本等を収集して、現在その数も853点となりました。今回の文学講座の日に開催したコレクションの展示「坪田譲治 創作の原風景」は、創作をテーマとした企画でした。譲治文学の逆境から生まれた奥深い跡を辿ることで、創作を志す方への励ましを感じていただけたのではないかと思います。

 坪田譲治文学賞から岡山の文学創作熱の高まりへ
 このコレクション5周年は、岡山市文学賞の坪田譲治文学賞と市民の童話賞が第30回を迎える年と重なりました。坪田譲治文学賞とは、岡山市が1984年に制定した文学賞で、岡山市出身で名誉市民の譲治の業績を称え、譲治文学の特質でもある大人も子どもも共有できる世界を描いた優れた文学作品に対して毎年贈られている賞です。最近では、第28回中脇初枝『きみはいい子』、第29回は朝井リョウ『世界地図の下書き』、そして今回の第30回では長崎夏海『クリオネのしっぽ』が受賞しました。
 こうして受賞作家は今回で30人となり、そのお一人である森詠氏が、「市民の創作活動を奨励し、市民文化の向上に資することを目的」として制定された坪田譲治文学賞の使命を果たして下さろうと、自
身もこれまで行ってきた創作方法をワークショップの受講者に「創作の極意」として伝授して下さった
のは画期的でした。川村湊氏のワークショップ「作家になりたい人のための人生相談」では、文学賞選考委員を担い様々な作家の姿を身近に見てきたご経験から受講者の熱心な質問に答えて下さいました。
 今回の熱心な受講者の姿を拝見しながら、坪田譲治コレクションをはじめ譲治の研究と顕彰に力を入れている本学が、岡山市とともに、文学創作を志す後身を育て続けようとした譲治自身の思いを引き継ぐ場を作り、そこで岡山の文化創造の発展に貢献できることは嬉しく、また今後とも大きな使命であると感じずにはいられませんでした。
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