リベラル・アーツと言語研究(日本語日本文学科・氏家 洋子先生)|清心ダイアリー

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002 リベラル・アーツと言語研究

日本語日本文学科 教授 氏家洋子(うじいえ・ようこ)先生

2010. 01. 27

■ お茶の時間

 朝は雨になりそうな空模様も、お昼にもなればすっかり晴れ上がっているのが、ここ岡山というものです。

ujiie.jpg日本語日本文学科 氏家洋子先生 ある日のおだやかな午後のこと、入試広報部の担当者であるわたくしは、とある仕事の関係で、日本語日本文学科教授 氏家洋子先生の研究室を、はじめて訪ねたのでした。
 なごやかに仕事が落ち着いたところで、先生はみずからお茶を淹れてくださり、しばし、二人でおまんじゅうをいただく時間となりました。

 ちょうど4年生が、自分自身の研究をまとめた卒業論文を提出したところです。拝見するところ、日文の学生さんは文章が上手だなあと思います。
 書き言葉でコミュニケーションをとるのは、社会人にとって大事な才能でもあるけれど、なかなか難しい…とわたくし自身日々実感しているのですが、言葉や物語に触れて過ごす4年間は、そんな才能を自然と伸ばしてくれるのかもしれません。

 そこから話題はどんどん広がって、学生さんと学ぶ楽しさや、これから進めていく研究の夢や、先生もわたくしもおたがい共働きの生活だとか…
 なんといっても先生はいつでも笑顔なのです。

 若い人たちと学び、影響を受けるためには、自分自身が柔軟でなければ…と言われたのが心に残りました。
 以前、たまたまコピー室で顔を合わせたときも、それはひとことふたことの出会いだったのですが、清心の学生さんと学ぶのを、とても楽しみにされていたことを思い出します。



■ Meet the Author

 楽しい時間もあっという間に過ぎ、そろそろおいとまするころ。

 先生はわたくしに、ご著書である『言語文化学の視点』と、共訳で出された『欲望としての知識 ― フロイトとピアジェについての論考』をくださいました。
 「いいんですか~!!」
 とおどろきながらも、そんなふうにご自分の成果を分かちあってくださることが、なんとも嬉しくってしかたないのでした。

 帰り道、さっそくページをめくってみると、その冒頭にはこんな文章がありました。

『言語文化学の視点』 まえがき

“一ポンドの肉だけを、身体から切り取ることはできない。血を一滴も流すことなしにそれができるかと問われた「ヴェニスの商人」はハタと困惑した。

 言葉について考える時、言葉と結び付いた他のものから切り離してそれができるかという疑問がわき、子供の頃読んだシェイクスピア作品のこの部分が思い起こされる。

 言葉はそれを発した人やその相手、その言葉でコミュニケーションの成り立つ社会等々から切り離して考えることはできない。さらに、その人にも社会にも歴史がある。

 人は或る歴史をもった社会に生まれてくる。そこで母語として身に付ける言葉にはその社会の先人が環境の中でどう生き、ものを見、工夫をしてきたかが刻み込まれている。言葉を身につけることはその社会の先人の営んできた精神活動を、そして、それが何十世代にもわたり受け継がれてきた総体としてある精神文化を、自分のものとすることである。

 私達はこの言葉を習い覚えることで、生きる上での指針を得ると同時に、制約をも引き受けることになる。言葉と人の精神の在り方とはこのように不可分の関係にある。

 私達は今を生きる人として、そのような存在である言葉についてより深く知り、自らを縛っているものがあるなら、自らを解き放つための意志的な行動をとりたい。見えないものに捉われているのはごめんだ。捉われていることに気付かずにいるのもごめんだ。

 では、そのように自由であるためには、どうしたらいいか。”


■ リベラル・アーツと言語研究

 いま出会い、お茶を飲み、語り合った先生の言葉として読むと、また違う次元で先生に出会いなおしたようです。
 話し言葉であれ、書き言葉であれ、その言葉から、先生が研究者として、人として、女性として、生きてこられた歳月… そんな片鱗に触れられる気がします。

 言葉を学ぶ意味って、そうだったんだ…と思います。
 自分が生きている基盤について知ることが、人を解き放ち、自由にする。
 人間の精神活動に決められた限界はないのだから、既存の学問分野にとらわれずに、あたらしい「クロスディサプリナリー」な研究分野を切り拓いていく。
 自由に会話を楽しまれる先生の姿から、本学の理念である「リベラル・アーツ」って、こんな生き方のことじゃないか…と思いました。

 氏家先生は今年度でご退職されますが、4月からはあらためて本学の非常勤講師として、これからも清心での授業を続けられます。

 卒業の季節。
 いま、このときに、先生と出会えたことを、とても嬉しく思うのです。


氏家先生の書籍です。
『言語文化学の視点 ― 「言わない」社会と言葉の力』LinkIcon氏家 洋子 著 おうふう
『欲望としての知識 ― フロイトとピアジェについての論考』LinkIcon H・G・ファース 著 氏家 洋子・浦和 かおる 訳 誠信書房
氏家先生の最終講義はこちら

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