001 『クリスマス・キャロル』の翻訳から
児童学科 教授 脇 明子(わき・あきこ)先生
2009. 12. 24
2009年のクリスマス ―― 脇先生が翻訳された『クリスマス・キャロル』が、美しい装丁の愛蔵版になって、岩波書店から刊行されました。
今日はこの本について、先生にお話をうかがいました。
■ 忘れかけられていたクリスマス
入試広報部(以下、N):もうすぐクリスマスですね。
児童学科 脇 明子先生脇先生(以下、脇):ディケンズがこの物語を書いた19世紀、クリスマスのお祝いは、実は忘れかけられていたんです。ピューリタン革命のとき、クリスマスが異教的な行事として禁止されてしまった影響があって…
そんな中で、『クリスマス・キャロル』は、あらためて人々がクリスマスを大切にする、きっかけになった本だと言われています。
クリスマスが来る前 ― 冬になって、だんだん日がみじかくなっていきます。でも、冬至を過ぎたころ、ちょうどクリスマスのころを過ぎると、少しずつ日が長くなっていきますね。
人の気持ちを含めて、すべてが少しずつ、あかるく変わっていくとき。私もそのころが、とても好きなんです。
クリスマスのお祝いは、キリスト教以前からあった風習が取り入れられてできたと言われています。人々がもともと持っていた知恵とキリスト教とが、いい形で融合したんだと思います。
そういう意味では、日本文化のあり方とも少し似ているかもしれませんね。
■ 翻訳のおもしろさ
N:翻訳も、そんな仕事かもしれませんね。時代を超えて読み継がれている古典を、別の時代・別の文化の中に、生かしていく…。
いま、この翻訳を振り返って、どんなことを思われますか。
脇:スクルージは、お金と仕事のことばかり考えている冷酷な人間として登場しますけれども、物語をよく読んでみると、ただそれだけではない魅力も持っています。
単純に「いい人」「悪い人」というだけでなく、それぞれの人物の魅力が伝わるような翻訳を心がけました。
以前『不思議の国のアリス』を翻訳したときですが、あの物語の中には、「ヘンな人」がいっぱい出てくるでしょう? そういう人物の魅力を描き出す翻訳のおもしろさは、『アリス』を翻訳していて得たような気がします。
それを、この『クリスマス・キャロル』に生かしたわけです。
N:先生は『アリス』をはじめ、たくさんの児童文学を翻訳されていますね。
脇:最初は、ウィリアム・モリスという人の作品が好きになって、自分で訳していたんです。荒俣宏さんの雑誌に載せてもらおうかと話したことから、『世界幻想文学大系』への翻訳を頼まれて…
それが翻訳をはじめるきっかけになりました。幻想文学といっても、子どもの眼を通したファンタジーの世界なんですが、それがずっと以前から好きですね。
■ 子どもの心の大切さ
N:『クリスマス・キャロル』の物語もそうですが、大人になっても、子どもの眼が心の中に生きているって、大切なことですね。
脇:大人になるということは、自分の「子ども性」を守れる強さを持つことですね。
本学の卒業生を見ていると、そう感じます。
児童学科卒業生の幼稚園の先生たちは、大人として幼稚園を運営していく強さも、もちろんあるし、それでいて、子どもたちの世界にもすっと入っていける、そんな力を持っています。
ちょうどいま、私のゼミの卒論にも、「子どもの居場所」を取り上げたものがあります。児童文学でも、子どもたちは、守られて居場所を与えられるだけでなく、やがて自分たち自身で居場所を獲得していく、そんなテーマが増えてくるでしょう?
子どもっぽいというのでもなく、また自分自身の子ども性を殺してしまうのでもなく…
大人になるって、そういうことだと思いますね。
脇先生とお会いして… ここには書ききれない、たくさんのお話をうかがいました。
“大人になるということは、自分の「子ども性」を守れる強さを持つこと”…
きっとこれからも、その意味を考えていく言葉になる、そんな気がします。
お話の中に出てきた書籍です。
▶『クリスマス・キャロル』(愛蔵版)
チャールズ・ディケンズ著 脇 明子訳 岩波書店
▶『クリスマス・キャロル』(岩波少年文庫版)
岩波書店
▶『不思議の国のアリス』
ルイス・キャロル著 脇 明子訳 岩波書店
『クリスマス・キャロル』(愛蔵版) 本学聖堂にて



